溺愛ポルックス【男4:女2】
題名『溺愛ポルックス』
声劇用 男性4名女性2名 目安50分
カイル(♂):リアムの上司で刑事。40歳。フルネームはカイル・レヴィンソン。リアムとミラの恩人。情に厚く事件には熱くなる。
リアム(♂):刑事。28歳。親のネグレクトにより妹と施設で育つ。妹をとても可愛がっていた。
ミラ(♀):リアムの妹。ある事件で命を落とす。享年16歳。しっかりしている。兄思い。
ジェームズ(♂):電気工事士。家族は妻と子供二人。冷静。
クレア(♀):デパート店員。子供二人の母親。明るく朗らか。
ショーン(♂):隣町のパーキングビルスタッフ。母親と二人暮らし。少し怖がり。
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題名「溺愛ポルックス」
作:みつばちMoKo
カイル:
リアム:
ミラ:
ジェームズ:
クレア:
ショーン:
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【?年前 児童養護施設 夜の庭】
ミラ:お兄ちゃん、約束して。
リアム:あぁ…約束する。
ミラ:絶対だからね?
リアム:あぁ。
ミラ:夜はやっぱりちょっと冷えるね。
リアム:上着持ってくるか?
ミラ:ううん。大丈夫。 あっ、あの星。双子座の。……なんていう星だっけ?
リアム:『ポルックス』。
ミラ:あーそれそれ。 お兄ちゃん、双子座だもんね。
リアム:ポルックスはカストルっていうもう一つの星と一緒で双子座。
ちなみにポルックスは一等星。ギリシャ神話に出てくるんだ。
ミラ:そんなに詳しいなら将来そういう職業で働いたりすればいいのに。
リアム:いや、俺のはただ星が好きっていうだけの知識だから。大したことない。
ミラ:ふーん。 なんか勿体無い。
小さい頃からさ。二人でよく星見てたよね。何もない、静かな部屋で。
リアム:それぐらいしか楽しみがなかったからな。 遊ぶものもなかったし。
ミラ:…うん。でもお兄ちゃんがいたから私、平気だったよ。お腹すいたとき、二人で食べたあのお菓子、今もあるのかなぁ。
リアム:さぁな。 今は…食べたいような、もう見たくないような。複雑な気持ちになるだろうな。
ミラ:今はね、ここの人たち、優しくしてくれるし、お腹もいっぱいになるし、幸せだよ。
それに今もこうしてお兄ちゃんと一緒に星を見る時間を許してくれてるのが嬉しい。
贅沢だなぁって思う。
リアム:そうだな。幸せだな…。
【現在:車で張り込み中】
カイル:どうした? なんか物思いにふけって。
リアム:あぁ……すいません。ちょっと昔のこと思い出してました。
今日は……星が綺麗に見えますね。
カイル:もしかしてあの頃のことか?
リアム:…はい。
カイル:まぁそんな時もあるよな。
リアム:感謝してます、ほんとに、カイルさんには。
カイル:あれは、まぁたまたま俺が気づいただけで。
リアム:でも、あの時見つけてくれなかったら俺たちどうなってたか…。
カイル:お前たちの家に聞き込みに行ったんだよな…。あの近くで起こった事件のことで。
親がいるような時間帯だったのに誰も出てこないし。
出直そうかと思ったら、女の子が出てきた。……やせ細ったお前の妹がな。
すぐこの家は異常だと思った。でも、今は別の事件を扱ってるからすぐには動けない。
とりあえず親がいるかどうか確認して、家の中を確認させてもらったんだ。
リアム:カイルさんが訪ねてきて、正直どうしたらいいか分かりませんでした。
あの生活もしばらくすると、これが当たり前なのかとさえ思えてきて。まぁ精神状態もおかしくなってたんでしょうね。
カイル:ネグレクトか…。そう言ったらカッコよく聞こえるけれど…要は育児放棄だ。
俺はいまだにそれをする奴らの心情が信じられない。自分の子供だぞ? 可愛いし色々心配だろうし、放っておくなんて、できっこないだろうに。
リアム:あの日。カイルさんが帰る時。
「待ってろ、すぐ助けてやるからな」って言ってくれたこと、今でも忘れてません。
すごくかっこよくてヒーローみたいでした。
カイル:なに言ってんだ。あの頃、俺まだ刑事になりたてだったんだぞ。
リアム:だってほんとに俺にとっては味方で、ヒーローで。 だから憧れて、俺、この仕事を選んだんですよ。
カイル:お前がうちの署に配属されたときはびっくりしたよ。
リアム:あのあと入った施設にときどき来てくれてましたけど、そのうち来なくなりましたからね。俺が警察官の試験目指してるなんて、知らなかったはずです。
カイル:あー…ちょっと地方に飛ばされてたんだよ、あの頃。
ちょっと熱くなりすぎてな…上からの反感を買った。すまんな、会いに行けなくて。
リアム:いいんです。警察に入れば、いつかカイルさんに会えるって思ってたから。
カイル:ほんとびっくりだよ。今はこうやってお前と組んで事件を追ってるんだからな。
リアム:ほんとそうですよね。
カイル:ほら、感傷に浸る暇ないぞ。あいつら動き出しそうだ。
今夜は……長くなりそうだな。
リアム:とことん付き合ってやりましょうよ。
カイル:ふふ。そうだな。お前のそのしつこいところ、嫌いじゃないぞ。
リアム:ははっ。ありがとうございます。
【数ヶ月後 デパート】
(肩がぶつかる)
ジェームズ:あっ、すみません。
リアム:……いえ。
ジェームズ:あれ?なんか向こうが騒がしいような…。
リアム:あぁ、気をつけた方がいいかもしれませんよ。なんか、あるかもしれない。
ジェームズ:そう…なんですか?
リアム:えぇ。
ジェームズ:あ…えーと。ありがとうございます…。
(叫び声やガヤガヤした環境音)
ショーン:なんだ、あれ…? はっ!ナイフ持ってるぞ!
ジェームズ:まずいな。
リアム:こっちへ。こっちに逃げましょう。あそこにある休憩室に!
(休憩室へ駆け足で向かう:走る音)
リアム:そこのあなたもぼーっとしてないでこっちへ!入って!
ショーン:は、はい!
ジェームズ:ドアを閉めて!
リアム:俺が鍵かける!
(鍵をかける)
クレア:何か…あったんですか?
ジェームズ:なんかナイフを持った人がこっちに…。
クレア:え!ナイフ!
リアム:とにかくここにいさせてください。職員用の休憩室ですよね?ここ。
クレア:それは構いません!緊急事態ですから。
(ドアの向こうから騒がしい音)
クレア:暴れてるの?
ジェームズ:そうみたいです。
ショーン:ここ、見つかりますかね?
クレア:どうでしょうか…。
リアム:とりあえず静かに。通り過ぎるのを待ちましょう。
(少し間を取る)
ジェームズ:……少し静かになりましたね。
ショーン:いなくなったのか?
クレア:どうでしょう…。
ジェームズ:大丈夫そうだ。 ドア、開けてみますか?
ショーン:そーっと。そっとだぞ。
ジェームズ:あれ?開かない。 おい!開かないぞ!
クレア:何か衝撃で開かなくなってしまったんでしょうか。
ショーン:え?そしたら閉じ込められたってこと??
リアム:大丈夫ですよ。もし通報されてたら警察がビル全体を見回って逃げ遅れた人がいないか確認するはずです。
ジェームズ:じゃあもう少し待ってたらいいのか?
リアム:警察を信じましょう。
ショーン:分かった。
【回想】
リアム:……カイルさん、俺ね、たまに夢を見るんです。
妹と二人で天文台で星を好きなだけ眺める。そんな生活をしてる夢。
なにもなくていい、他に家族や仲間がいなくてもいい。ただ静かに。ひっそりと生きていく。 そんな夢です。
だから、もし俺がカイルさんより先に死ぬようなことがあれば、星が綺麗なとこに葬ってください。妹と一緒に。
さっきそんなことを思ってました。
カイル:なんでお前の方が先に逝くんだよ。 順番でいったら俺だろ。
リアム:ふふ、冗談ですよ。冗談。でも、この世界、特に俺らの仕事って何があるか分からないじゃないですか。だから、念のためですよ。念のため。
カイル:まぁ聞くだけ聞いとく。
(少し間を取る)
【現在:デパート内休憩室】
クレア:あの…まだでしょうか? もう3時間経ってるんですけれど。
ジェームズ:流石に遅くないか? もう外も静かだし、警察も動いてるだろ?
リアム:そうですねぇ…。 でも誰にも気づかれず、ずっとこのままの可能性もあるんじゃないですか。
ショーン:は?
クレア:やだ…。やだやだ。 昔のこと思い出しちゃう…。
ジェームズ:どうしたんですか?
クレア:閉じ込められたっていうか、監禁みたいな……昔。
ショーン:……俺も。ある。
ジェームズ:俺もあるが…。まぁそのうち助けが来るでしょうから、座って待ってましょう。
リアム:ずいぶん余裕ですね? ジェームズさん。
ジェームズ:は? なんで俺の名前を知ってる。
リアム:知ってますよ。ジェームズ・ランドンさん。電気工事士で家族は奥さんと子供2人。
ジェームズ:なんでそんなことまで。
リアム:さっき、監禁みたいな経験があるって言ってましたね? それっていつですか?
ジェームズ:7年前。隣町で銀行強盗があっただろ。あの時だ。
警察が到着するのが早くて犯人が逃げられなくなって立てこもった。銀行の客たちを人質にして、安全に逃げれる状況を作れと要求した。その時俺は銀行の中にいたんだ。
クレア:わ…わたしもそのときです!
リアム:へぇ。それって結局どうなったんでしたっけ?
ジェームズ:警察の特殊部隊が突入してきて、犯人一人は捕まった。一人は逃げた。
ただ最後に暴れて、銃を乱射していった。
リアム:怪我人は?
ジェームズ:確か3人。犯人の打った弾(たま)が当った銀行員が二人。 あと…。
リアム:あと、女の子が一人……だろ?
ジェームズ:そう。女の子は亡くなったらしい。確か中学生か高校生。
リアム:高校生。16歳。名前は……ミラ・ウィラード。
クレア:そう。確かそんな名前。当時、事件のあとニュースでみた…。
リアム:彼女は兄の代わりに銀行に行っていた。そこで事件にあった。
兄の名はリアム。……そして俺の名前はリアム・ウィラード。
ショーン:え?
リアム:そう。彼女は俺の妹だ。
ジェームズ:なにっ?
クレア:妹さん?!
リアム:本当は俺自身が行くはずだったんだ。でも外せない用事ができて。
俺が行けばよかったんだ。自分のことなのに。妹の優しさに甘えたから…。
ジェームズ:そうだったのか…。
リアム:ジェームズさん。あなたは当時も冷静だった。
ジェームズ:それは電気工事は狭いところが多いし、閉じ込められた状態でやることなんて日常だからな。慣れている。
リアム:いや違う。 あなたはあの日、強盗が入ることを知っていた。
ショーン:は? 知ってたってどういうことだ?
リアム:あの銀行で電気工事を請け負っていたことのあるあんたは、もちろん銀行の見取り図や構造も知っている。どこに何があるのかも、どこにいれば安全なのかも。
借金でお金に困っていたあなたは、闇サイトで知り合った名前も知らない誰かにあの銀行の構造を教えた。その見返りにお金といつ犯行が行われるのかも教えられていた。
ショーン:じゃあ……、じゃあなんであの日。わざわざ銀行にいたんだ?
強盗に遭うの分かってるのに、わざわざ行くことないだろ?
リアム:ここからは俺の推測だ。
まだ借金の返済が必要だったあなたは、闇サイトの相手にもっと報酬をもらえることはないかと聞いた。そうして多分返ってきたのが…。
犯行当日、その場に居合わせて、万が一のために電気系統を操作して手助けをすること。
そうだろ?
ジェームズ:あくまで推測だろ?
リアム:いや、そう考えればしっくりくる。あなたが配線盤のすぐ近くから動かなかったこと。そして…そのせいで妹が銃に打たれやすい場所へ移動させられたこと。違うか?
ジェームズ:あの子は……俺がそこを避けてほしいと頼んだら、始めは不思議な顔をしていたが、すぐ応じてくれた。優しい子だったよ。
リアム:やっぱりか。そのせいで…あんたの一言で妹は死んだ!
元々座っていた場所なら、打たれることなんてなかったのに!
(銃を出し銃口を彼に向ける)
クレア:きゃっ。
ジェームズ:なんで拳銃を??
リアム:あぁ言ってませんでしたね。私、警官なんですよ、これでも。違法に取引されて押収した拳銃なんて、署にたくさんありますからねぇ。
続いて…。クレア・ベイリーさん。
クレア:あ……私。
リアム:あんたもあそこにいた。
クレア:は…い…。
リアム:あんたは妹を突き飛ばして先に逃げた。
クレア:違うの!
警察との交渉で先に3人だけ解放してくれるっていうことになって…。それで誰が先に出るかっていう話になって。それでとりあえず子供は先にということが決まった。
犯人が別の部屋で交渉してる時は小さな声で会話ができたの。そのとき近くにいた女の子が話しかけてきて。
(以下、回想)
ミラ:お姉さん。……もしかしてお腹痛いの?
クレア:え?
ミラ:だってさっきからお腹触ってる。
クレア:あ…。違うの。お腹にね、赤ちゃんがいるの。
ミラ:赤ちゃん…。
クレア:そう、赤ちゃん。まだ小さいから見た目からは分からないかもしれないけれど。
ミラ:あとどれくらいで生まれるの?
クレア:まだ5ヶ月以上はかかるわ。
ミラ:へぇ。
クレア:お兄ちゃん、あっ家でね?この赤ちゃんのお兄ちゃんが待ってるんだけれど。
生まれるのをすごく楽しみにしてくれててね。
私たちも兄弟を作ってあげたいって思ってたから、赤ちゃんができたと分かった時は嬉しくて。
ミラ:そうなんだぁ…。ちゃんと望まれて生まれてくるんだね…。ね、赤ちゃんはどっち?男の子?女の子?
クレア:女の子。妹よ。
ミラ:そっか…。妹か。そっかぁ…。そのお兄ちゃんはすごく妹のこと溺愛しそうだね。
クレア:そうなの、私も今からそう思ってる。自分が妹のこと守るんだってもう張り切ってるわよ。
ミラ:頼もしいね、お兄ちゃん。 ね…、お腹触ってもいい?
クレア:いいわよ。 まだね、動いたりはしないけど、ちゃんと元気よ。
ミラ:(お腹を撫でながら)ちゃんと、元気に生まれるんだよ。
お外に出たらお兄ちゃんが何者からも守ってくれるからね、安心して出ておいでね。
クレア:ありがとう。きっと赤ちゃんに聞こえてるわ。
ミラ:……お姉さん。今、誰が解放されるか決めてるでしょ?多分、私、背がちっちゃいから幼く見えて、先に解放されるかもしれない。この中でならその可能性が高い。
でもね……お姉さんが先に外に出て。
クレア:え?
ミラ:もし犯人に何か言われたら、お腹に赤ちゃんがいるって言えばいい。私が説明してもいい。
クレア:何言ってるの?ここから解放されるんだよ? チャンスがあるなら、それに乗った方がいいよ。
ミラ:ううん。だって小さい子からっていう順番なら、赤ちゃんの方が小さいもん。私よりずっと長く生きる。これからずっと。ちゃんと愛されて生きていく。
だからお姉さん、先に出て?
そして元気な赤ちゃんを産んで。お兄ちゃんに妹を会わせてあげて。
クレア:それは…。
ミラ:大丈夫。警察は優秀なの。残った私たちもすぐ助けてくれる。実は私にもお兄ちゃんがいるんだけれど、警察官に憧れるぐらい警察を信用しているの。
クレア:ほんとにいいの?
ミラ:うん、いいの。
クレア:ありがとう。
ミラ:その代わり、赤ちゃんが生まれたら会いに行かせてね。
(少し間を取る:回想→現在へ)
クレア:……だから、私が先に解放されたの。
リアム:そんな…。妹とあんたが一緒にいるところは部屋の防犯カメラには映ってなかった。
クレア:ちょうど死角になるとこにいたの。
リアム:妹はあんたに突き飛ばされて…、立ちあがろうとした妹を出し抜いて、あんたが先に外に出たじゃないか。
クレア:突き飛ばしてって言われていたからよ。もし犯人が融通効かないなら強硬手段でって。交渉を進めるための解放だし、最終的には誰でもいいはずだからって。
リアム:でも、でももし妹が先に解放されていたら…。妹は……ミラは死ななかったはずだ!
クレア:ごめんなさいっ!本当にごめんなさい!
リアム:おっと、待て。 窓から逃げようとしてるのか? 残念だけれど、そうはさせられない。
(撃鉄を起こす)
ショーン:ひっ。
リアム:俺は真相を知りたいだけだ。当時と同じ恐怖を思い出してもらうために、この状況をわざと作った。
ここが休憩室でこの時間、クレアさん、あんたが休んでいることも、ジェームズさんがこのフロアの電気点検に来ることも調べていたし、そして…偶然を装ってショーンさんをこの部屋に入るように導いたのもわざとだ。
ショーン:なんだって?
リアム:さぁ、聞かせてもらおうか、言い訳を。……ショーン・マクマレイさん。
(ドアを叩く音)
カイル:リアム!!!
リアム:カイルさん…。早いですね。
カイル:休憩室に逃げていく人がいたのを見ていた従業員がいたんだ。その従業員から背格好を聞いてな。 お前、今日非番でここで買い物するって言ってたろ? それですぐわかったんだ。
リアム:さすがカイルさん。
カイル:お前……警察に入ったのはこれが目的か?
リアム:ふっ。まぁ新たな目的になったのは確かですね。初めは本当にカイルさんに憧れて警官になろうって思ってましたから。
この事件は不可解なことが多くて未だにハッキリしてないことが多すぎる。だからこっそり俺は調べ直してたんですよ。
ショーン:お、おい!外にいる奴も警官なんだろ? こいつ、どうにかしてくれ。
リアム:静かに。最後にお前。 あの時と同じだな。自分だけ逃げようとする。自分だけ助けてもらおうとする。 当時、お前はどこにいた。
ショーン:……銀行の出入り口。警備員として。
ジェームズ:あの時の警備員か?
リアム:そう、警備員。 どうして犯行が行われる前に、入り口で止めなかった?
ショーン:それは…。
リアム:それは?
ショーン:怖かった。アイツの目。 昔、俺をいじめてた時の目と同じだった。
クレア:どういうこと?
ショーン:アイツは…犯人とは知り合いだった。きっと向こうは俺の顔なんて覚えちゃいなかった。ただ、暇つぶしのいじめ相手がたまたま俺だっただけだ。
銀行でアイツが目の前に現れた時、昔を思い出して足が動かなくなった。体を張って止めなきゃいけなかったのに……できなかった。
リアム:もう大人になってたのにか?
ショーン:ダメだった。アイツの目を見たら一瞬で昔に戻された。でもカウンターまでアイツが侵入していって、マズイと思ったんだ。だからハッとして慌てて止めようと思った。
そして近づいてアイツの腕を捕まえようとした時、目が合った。それで…。
リアム:それで?
ショーン:その時、アイツが俺の顔を見て俺のことを思い出したらしい。
ニヤッと笑って俺を見た。 そして…「久しぶり」と顔を俺の耳に近づけて囁いた。
リアム:そんなこと言われてたのか。防犯カメラに音声は記録されてない。
だから、犯人がお前に何か文句でも言ったのかと思っていた。
ショーン:その一言で俺はもうアイツに従うしか無くなった。金庫のところまで連れていって金をカバンに詰めるように言われた。
でもアイツに協力していることがすごく嫌だった。だから少し反抗してみたんだ。そしたら、ちゃんと協力したら、お前は先に出してやるって。 それと…。
一人女性を連れてこいって言われた。若い、かわいい子がいいと。
リアム:だから、妹を犯人がいる応接室へ連れていったのか。
ショーン:すまない。でも、何もされてない!俺もドアのところで見張りをしていた。
でも、話し声が聞こえるだけだった。
アイツも、犯人も確かあのぐらいの妹がいたはずなんだ。情があったのか、1時間ぐらいで妹さんも俺も解放された。
そのあと店内に戻って、その電気工事士さんの言った配線盤のところに座ってた。
リアム:その1時間、妹はどれだけの恐怖を味わったと思う?
ショーン:本当にすまない。でもあの時、そうするしかなかったんだ。
足の悪いお袋がきっと家で心配して待ってる。俺が帰らないと何もできない。だから…。
リアム:だから、犯人に協力して自分だけ逃してもらおうと?
ショーン:あぁ。
リアム:そのせいでどんだけミラの心にダメージを与えたと思う?
ショーン:謝っても、もうダメだよな。だって妹さんは…。
リアム:くそっ!
(机を蹴る)
リアム:お前ら3人は…、妹が殺される手助けをしたようなもんだ!
偶然が重なったとしても、何かひとつ違ったら銃弾に当たらなかったはずなんだ…。
なんで……なんでミラだったんだ。どうして俺がそこにいなかったんだ…。
助けられたかもしれないのに。俺だったら、逃げられたかもしれないのに…。
事件が不明瞭なのは、お前たちが警察に話していない自分だけの秘密があるからじゃないのか?
ショーン:俺個人の事情だったから…。
クレア:話しかけてくれたあの子が亡くなったって聞いて……きっと私はあの子の家族から責められるだろうから怖くなって……警察には言えなかった。
ジェームズ:俺は直接の犯人とやりとりはしてないから黙っていれば大丈夫だと…。
リアム:ふふ。みんな自分勝手だな。ははっ、自分が可愛いもんな。
そういえばさっきナイフを持っていた奴な。薬漬けなんだ。真っ当な判断なんかできない。
仲良くなって俺のいうことを聞くように洗脳して、今日ここで暴れたら新しい薬をくれてやるって伝えてた。最後に屋上で待ってると伝えてな。
……まぁ俺がプレゼントしたベストに爆薬が入っているが。
カイル:それって!…お前!
リアム:あいつはっ!逃げた方の犯人だ!乱射して妹を殺した!海外へ逃亡していたのをやっと見つけた…。
過去の自慢話としてこの事件のことを周りに話してる奴がいると知って、接触した。
あいつは親が警察上官の友達に頼み込んで刑が軽くなったんだ!
事件の細かい情報がうやむやにされてたのもあいつのせいだ!
カイル:そんなことして妹さんが喜ぶと思ってるのか?!
(爆発音)
ショーン:うぉっ!! なんだ屋上からか?!
リアム:爆発したみたいですね…。
カイル:お前!
リアム:言ったじゃないですか。ベストをプレゼントしたって。ちゃんと屋上で待ってたみたいですね。よく3時間も待ってたなぁ。よっぽど薬が欲しかったんだ。
カイル:お前の気持ちも分かるが!
リアム:……分かる?俺の気持ちが?
妹は俺の全てだった。親に見捨てられても、周りから変な目で見られても、彼女がいれば平気だった。彼女を守ることが俺の生きがいだった。
それなのに……ある日突然いなくなったんだぞ! 俺はなんのために生きて行けばいい?
カイル:妹さんのために…彼女の分も生きていけよ!
リアム:無理だよ…。
この7年間生きてこられたのも事件の真相を明らかにするために時間を費やしたからですよ。まさか警察上部が隠してたとは知らなかったけど。
カイル:お前が告発すればいい。
リアム:別にそうすることが目的じゃない。
あの事件で、妹が殺される要因となったこいつらを探し出して真相を明らかにすること、そして追い詰めること。場合によっては命も。それだけです。
この部屋にこいつらが集まるように入念に準備したんだ。一回きりのチャンス。
うまくいってよかった。
カイル:犯人は別にいるだろ? そいつは捕まった。 この人たちも人質だったんだぞ。
リアム:カイルさん…。偶然って怖いですよね。あの時、あそこに行ってなかったら、そこに立っていなかったなら。 そんなふうに考えてしまうんです。
カイル:お前。妹さんが亡くなった悲しみは消化しなくていいんだぞ。悲しいのは当たり前なんだ。 俺は、妹さんにお前を頼まれてる。
(回想)
ミラ:カイルさん、あのね。
お兄ちゃん、私のこととなると…その、暴走しちゃうでしょ?
たぶん親に愛されなかったからお兄ちゃん自身がその分も愛情与えようとしてくれてるんだ。だからうまくいかないことあったら自分のせいにしちゃう癖あるし。
ほんと面倒臭いんだけどね。
だから、カイルさん。
お兄ちゃんが自分を責めるようなことを言ったら、それは違うって正してあげて。
もっと自分を愛してあげてって。
(少し間を取る:回想→現在)
カイル:自分を責めるな。もっと自分を愛せよ!
リアム:まるでミラが言うようなこと…。
(3人の方向へ銃を構える)
ショーン:やめろ!
クレア:やだ待って!
ジェームズ:こっちに銃を向けるな…。
リアム:カイルさん、もう十分です。感謝してます。
今日ここまできてくれただけで俺、あなたと出会えたこと、奇跡だったんだって思ってます。
ショーン:だから、銃を下ろせって!
リアム:ただ残念なことは、こいつらを殺しても妹は返って来ないってことです。
ジェームズ:そうだぞ。
クレア:お願い、落ち着いて。
ショーン:銃を置いてくれ。
リアム:ふふ。……時間取らせて悪かったな。
ジェームズ・ランドン。借金はまじめに働いて返せ。家族が大事だろ?
クレア・ベイリー。子供を、兄弟をちゃんと愛してやれ。簡単に手放すんじゃねぇ。
ショーン・マクマレイ。お前をいじめたアイツはたぶん刑務所から出てこれないから安心しろ。もう…怖がるな。
(銃声一発)
カイル:おい! 開けろ! リアム! バカか!一般市民を撃つなんて!
(ドアを蹴り飛ばす)
カイル:やっと開いた…。おい、リアム!
リアム:カイルさん。大丈夫ですよ、鍵を壊しただけです。
カイル:ちょっと待て。なんで俺にも銃を向ける?
リアム:まだ実弾入ってるんです、これ。
カイル:お前…。逃げようとしてるのか。
リアム:さぁ? 俺のこと、捕まえますか?
カイル:捕まえるのが俺の仕事だからな。
リアム:ふふ。やっぱりあなたは俺のヒーローだ。 ……ありがとう、あなたに会えてよかった。
(発煙筒をたく)
カイル:畜生、発煙筒か! 見えねぇ。
あっ、待て! どこに逃げるんだ! ……屋上か?!
クレア:あの…。あの人、たぶん死ぬ気じゃ…。
カイル:くそっ!逃げ足早いな。
(少し間を取る)
(遠くから銃声一発)
ショーン:銃声…。
カイル:リアーーーム!!!
(少し間を取る)
クレアM:私が呟いたあと、屋上の方から銃声がした。
彼の上司が急いで屋上に上がった時、そこにはベストを着た当時の犯人と、そこに折り重なるよう倒れていた彼の姿があったそうだ。
ジェームズM:彼は私たちを殺したいほど憎んでいたに違いない。
しかし銃を持っていたとはいえ、本当に殺そうとは思っていなかったはずだ。 その証拠に実弾は二発。その他は空砲だった。
ショーンM:最後に彼が俺たちに向けた言葉。 彼が本当は優しい人物なのを知るには十分なものだった。
何かをやり遂げた喜びなのか、妹さんの元へ行ける嬉しさなのか、横たわる彼の顔はすっきりとした表情で笑みを浮かべてるようだった。
【その後 見晴らしのいい丘】
カイル:リアム。お前が言ってた頼み、叶えてやったぞ。
どうだ?ここからなら綺麗な星が見えるだろ? それに、妹さんも一緒だ。
カイルM:「ポルックス」。彼の口から私も聞いたことがあった。
ギリシャ神話において、ポルックスとカストルは大神ゼウスと王妃レダの間に生まれた双子である。しかしカストルは人間の子、ポルックスは神の子として生まれた。
二人は成長し立派な勇者となったがある戦いで悲劇が起こる。
ここでカストルは敵に殺されるのだが、ポルックスは神の子であるためどんな攻撃を受けても死ぬことはできなかったそうだ。
ポルックスは兄弟の運命の違いに嘆き悲しみ、自分の命と引替えにしても兄カストルを生き返らせてほしいとゼウスに頼んだ。最初は聞く耳をもたなかったゼウスも、兄思いのポルックスの願いを聞き入れて、二人を天に上げて星にしたという。
カイル:兄弟愛が強すぎるんだよなぁ…。まるで、お前らみたいだ。
なぁ…これで本当に良かったのか? お前と……俺はお前とまだまだ一緒にいたかったよ。
【回想】
ミラ:お兄ちゃん。約束して。
リアム:ん?
ミラ:もし刑事になったら……人は殺さないで。
それは罪になることでしょ? 殺さないって約束して。
リアム:あぁ。約束する。 もしそうなったら俺もいなくなる罰を受ける。
ミラ:絶対……だからね?
リアム:あぁ。お前との約束は絶対守るよ。 ……絶対に。
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