ブライトレモンイエロー【男2:女1】

題名『ブライトレモンイエロー』

声劇用 男性2名 女性1名 35〜45分


・谷倉 光莉(たにくら ひかり):大学3年生。中学の時に引っ越して母と二人でこの地方に住む。基本的に明るい性格。芯が強い。

・辻 朔太郎(つじ さくたろう):光莉、透吾と同じ大学に通う3年生。光莉と高校でクラスメートとなり友人となる。洞察力がある。

・池松 透吾(いけまつ とうご):光莉、朔太郎と同じ大学に通う3年生。大学で二人と出会い、仲良くなる。人当たりは良い。やるときはやる。


*『プレシャスパープル』に出てくる「光莉」の過去のお話です。

*「光莉M」「朔太郎M」「透吾M」と表記してモノローグが入ります。 


今作「谷倉光莉」の未来のお話です


下記をコピーしてお使いください



題名「ブライトレモンイエロー」

作:みつばちMoKo

谷倉 光莉:

辻 朔太郎:

池松 透吾:

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光莉M:いつかどこかでまた笑えるように。いつか自分の足でしっかりと立てるように。負けない。私を助けてくれる大切な人たちが今日も笑っていられますように。そう願って生きている。


【大学】

透吾:なぁ、次の講義、サボらない?


朔太郎:だるいよねー。あの教授の講義。


透吾:あと、2回ぐらいはサボれんじゃね?卒業に必要な単位のためだけに取ってる講義だしなー。


朔太郎:どうする?光莉。


光莉:出るよ。あんたたちだけサボってきたら?


透吾:まじかよ。一緒にクレープ食べに行きたかったのに。


朔太郎:出た、スイーツ大好き男子。


光莉:それってこの前大学の近くにできたとこ?


透吾:そう!そこ。な、食べたいだろ?


光莉:授業終わってからでもいいでしょ。


透吾:いや人気あるから夕方までに売り切れちゃうときもあるんだって!だから!


光莉:じゃ、講義に遅れるから、私、行くね。


透吾:あっ。待てって!


朔太郎:……行っちゃったね。


透吾:あいつ、真面目すぎない?


朔太郎:まぁそれが光莉のいいところでもあるし。


透吾:高校の時からあんな感じ?


朔太郎:そうだな…あんまり変わんないかも。


透吾:地元、こっちじゃないんだっけ。


朔太郎:そう。高校に入る直前、中三の時転校してきたらしい。俺は高校からの友達だからさ、ちらっと聞いただけだけど。光莉、あまり地元の話、したがらないんだよな。


透吾:なんかあったのかな。それともあまり人に話すのが勿体ないほどの楽しい生活だったとか。


朔太郎:深くは聞いていない。ていうか聞けてない。


透吾:ま、お前の性格ならそうだろうな。そっと見守るタイプ。


朔太郎:……どういう意味?


透吾:いや。ぼーっとしてると誰かにかっさわれちまうぞ。


朔太郎:だからどういう意味?


透吾:だからそういう意味。


朔太郎:訳わかんねー。


透吾:光莉はどうなんだろうな。


朔太郎:どうって?


透吾:だから友達とか?あと……恋愛とか?


朔太郎:なんかずっと一人でいたな。高校のときからも。 あっ女友達はいたよ? でもなんか深い付き合いっていうの? 親友みたいのはいなかったと思う。


透吾:基本明るいし、話しやすいのになんでだろうな。


朔太郎:うまく言えないんだけどさ。 なんか……ひとりで両足で何とか踏ん張って立ってるっていうのかな、そんな感じがしてた。


透吾:ひとりで…か。


朔太郎M:俺が初めて光莉と話したのは高校に入学してすぐの委員会。誰も手を挙げなかった委員選出に担任が俺らを適当に出席番号で決めたから。



【高校(回想)】

光莉:辻くん…だっけ?


朔太郎:うん。よろしく。谷倉さんだよね?


光莉:光莉でいいよ。なんか苗字呼び慣れないんだ。自分じゃないみたいで。


朔太郎:俺も朔太郎でいいよ。朔(さく)って略して呼ばれることが多いけど。


光莉:うん、分かった。


朔太郎:めんどくさいね、委員会。


光莉:ほんと。


朔太郎:俺、同じ中学のやつ、クラスに一人もいなくてさ。 委員も面倒だし静かにしてたのに担任に指名されて…。 谷倉さ…光莉はどこ中から来たの?


光莉:……隣町の方。半年しかいなかったけれど。


朔太郎:転校?


光莉:うん。


朔太郎:その前は?


光莉:……遠いとこ。


朔太郎:かなり遠いとこ?


光莉:うん。会いたい人が居てもすぐには会いにいけない距離のとこ。


朔太郎:……そう…なんだ。


光莉:朔太郎くん。


朔太郎:うん?


光莉:私が知ってる人になんか似てるかも。雰囲気とか。


朔太郎:初めて話してから数分しか経ってないのに? 似てるって分かるの?


光莉:優しいってよく言われるでしょ。


朔太郎:……まぁ。


光莉:言葉を選んで話すし、人のことよく見てる。そしてこれは多分だけれど……自分の好きなことには妥協しない。


朔太郎:……まぁそうかも。


光莉:ふふ。当たった。


朔太郎:なんで分かるの?


光莉:なんでだろうね。


朔太郎:……ほんとなんで?…ね、なんで?


光莉:ふふ。おもしろいね、朔太郎くんって。


朔太郎M:そうやってクスクス笑う光莉はとても綺麗で、とても謎めいてて。これから彼女と同じクラスで過ごせるのが楽しみになって。 委員に指名した担任に感謝したぐらいだった。



【居酒屋】

光莉:ねぇどうして授業終わってからも、あんたたちの顔見なくちゃいけないの?


透吾:いいじゃん、お店の売上に貢献してるんだからさ。朔も一緒に来れたし。


光莉:はいはい、いつもありがとうございます。それで追加のお飲み物はいかがなさいますか?


透吾:ビール、とレモンサワー、でいいよな。


朔太郎:うん。光莉、今日何時上がり?


光莉:23時。


朔太郎:じゃ、それまで待ってるから、一緒に帰ろう。送る。


透吾:いいね、俺も一緒に帰る。


光莉:まぁ、いいけど。


朔太郎:そのボールペン、いっつも使ってるね。


光莉:あ…うん。気に入ってるんだ。


透吾:授業の時も使ってるよな。光莉にしては珍しい感じのやつ。


朔太郎:光莉の好みとは違う感じだよね。


光莉:もらったの…昔。なんかね、これ持ってるだけで強くいられる気がしてて。だからいつでもどこでも使っちゃうんだ。


朔太郎:誰からもらったの?


光莉:あー…家族みたいな人かな。


透吾:それだけ大事に使ってもらえたら、あげた人も嬉しいだろうな。


光莉:んー、どうかな。そんなに深く考えずにくれたんだと思うけれど。


朔太郎:ごめん、仕事中にいっぱい話しかけて。


光莉:大丈夫。


透吾:じゃ、あとでな。


光莉M:あげた側の方はなんとも思ってない。けれど、自分にとってはものすごく大事なものになったりする。ただそれだけのこと。生きていくためのお守りみたいなもの。それだけ。


朔太郎:あ、来た。


光莉:お待たせ。


透吾:じゃ。帰ろうぜ。


光莉:はい、これ。待っててくれたお礼。


朔太郎:ふふ、いつものレモンキャンディだ。


透吾:酸っぱいの、よく食べれるな。


朔太郎:慣れると美味しいよ。


光莉:クエン酸は疲れをとるんだよ。まぁこれはそんな成分入ってないかもしれないけれど。プラシーボ効果みたいので元気になるよ。


透吾:プラシーボ効果?


朔太郎:透吾、まさか……知らない?


透吾:……知ってるに決まってるだろ。ほら、えっと確か…そう!あれだ!薬の成分が含まない偽物の薬でも、よく効く薬だって言われて飲んでたらほんとに効いたようによくなるっていうやつ……だよな??


朔太郎:まぁ大体正解。


透吾:やった。


光莉:プラシーボ効果ってさ、薬じゃなくって言葉でも効果あるよね。


朔太郎:言葉?


光莉:うん。叶いそうもないことや望みの薄いこととか、そういうことをある人が望み通りに叶うよって言うだけで将来そうなっちゃうこと。


透吾:なんだか難しいな。


光莉:きっとその人への信頼が大きいんだろうね。その人が言うから叶うって思える。


朔太郎:尊敬する人に言われるとそうかもね。


光莉:でも実際はね、叶うように本人がいっぱい努力して頑張って頑張って頑張ったから、最高の結果になるんじゃないかと思うんだ。その人が叶えたわけじゃなくて、そう仕向けてくれたっていうか。


朔太郎:なんとなくわかる。


透吾:相手への尊敬や愛情がないとその効果は生まれないってわけか。


光莉:うん。今すぐは無理でもいつか叶うって信じさせてくれる魔法。


朔太郎:魔法、か…。そう思える人に出会いたいな。光莉はそんな人いる?


光莉:……いるよ。


透吾:わかった家族だろ? お父さん?それともお母さん?


光莉:……うちね、父親いないの。離婚してる。


朔太郎:そう…だったね。


光莉:ちなみにお母さんでもないよ。でも私の生きてきた短い人生のなかでその人の言葉は、なんか信じられるんだ。


透吾:なんか羨ましいな、その人。光莉にそんだけ信頼を得てて。ちょっと妬くわ。


朔太郎:変な独占欲みたいの出すなよ。


光莉:やめて、ほんとに。ふふ。


透吾:こんなに立派になって、お母様の教育がよろしかったんですわね。


朔太郎:やめろ、その口調。


光莉:お母さんはね、私を大学まで進学させてくれた。すごく苦労かけちゃっている。働きすぎて体調崩しがちなの。 そこが心配なんだ。


朔太郎:お母さんは中学の地元の方に住んでるんだよな?


光莉:そう。お互い一人暮らしになっちゃった。さすがに実家からこっちに通うのはつらい距離だから。でもなるべく負担かけたくないから、バイトも頑張って、勉強も頑張って……。そう、資格も取らなきゃ。来月、秘書検定受けるんだ。


透吾:俺たちはお前の体の方が心配。無理しすぎ。


朔太郎:そのとおり。光莉が倒れちゃったら元も子もないんだからさ。


光莉:……ありがと。でも体は丈夫なんだよ、これでも。


透吾:なんか俺たちにできることがあれば遠慮なく言えよ。


光莉:ふふ、それ、こういうときの常套句(じょうとうく)。


透吾:……そうだけどよ。


朔太郎:光莉。……無理はしないで。


光莉:うん、ありがと。



【大学構内】

透吾:おっ光莉、おはよ。って、どこ行く?


朔太郎:光莉?!? ちょっと待って。ねえ、待って!


(慌てた様子で駆け足で去って行こうとする光莉を止める)


透吾:光莉? 


光莉:どうしよ……。


朔太郎:落ち着いて。


透吾:何があった?


光莉:あ…えと。


朔太郎:ゆっくりでいいよ。


光莉:スマホ…。


朔太郎:スマホ? 誰かから電話きたの?


光莉:う、うん。


透吾:誰から?


光莉:お母さん…の職場の人。


朔太郎:職場の人はなんて言ったの?


光莉:お…母さん、倒れたって…。


透吾:倒れた?


光莉:うん。


朔太郎:今連絡きたの?


光莉:ねぇ、どうしよう、突然、倒れたって! 病院に運ばれたって! ……私、行かなきゃ。お母さんとこに行かなきゃ!


朔太郎:光莉。落ち着いて。


光莉:最近電話してなかったから…。ずっと体調悪かったのかもしれない。気付いてあげられなかった。どうしよう…私のせいだ。


朔太郎:違うよ、光莉のせいじゃない。


光莉:……どうしよ。


朔太郎:震えてるね。大丈夫。俺たちがついてる。


光莉:お母さん…。


透吾:行くぞ。


光莉:……え?


透吾:お母さんとこに行くぞ。な?朔。


朔太郎:もちろん。ほら、行くよ。


光莉:え、朔と透吾、授業は?


透吾:サボるんじゃなくって休まなくちゃいけない重要案件だからな。


朔太郎:光莉のおかげで俺たち出席率いいんだよ。


光莉:……でも。


透吾:そういう話はあとで。今は1秒でも早くお母さんのところへ向かうのが先。


朔太郎:なんかあったら俺たちを頼れって言ったでしょ。


透吾:そ。光莉はひとりじゃない。


光莉:…ありがと。 ありがとう透吾、朔。


光莉M:お母さんは倒れてから発見が早かったらしくて、大事に至らなかった。でもしばらく入院は必要。先生から病状を説明してもらったあと、お母さんのもとへ行った。ベッドに寝てるお母さんの顔色はすごく白くて、ただ見ていただけなのに知らず知らずのうちに涙が出てきた。お母さん、ごめんね。具合悪いの、気付けなくてごめんね。……二人きりの家族なのに、ごめんね。



【病院待合室】

朔太郎:光莉、寝た?


透吾:寝てる。


朔太郎:疲れたんだよ。心も体も。


透吾:待合室のソファーに横になっても寝にくいだろうに。


朔太郎:お母さんが起きるまで、待ってるんだって。


透吾:あんなに慌てた光莉、初めて見たな。


朔太郎:うん。光莉って、しっかりしてるし、周りを俯瞰して見てる感じするし。


透吾:大学に入ってからすぐ知り合ったけれど、まだまだ知らない光莉がいそうだな。


(少しの間をとる)


朔太郎:あのさ。


透吾:うん。


朔太郎:この前、地元帰ったとき、俺の友達が光莉がいた中学の子を連れてきてて、少し話したんだけれど。


透吾:ちょっとだけいた中学の方?


朔太郎:そう。卒業までの半年かな。あんまりそこで馴染めなかったらしい。光莉、元々もっと都会の方に住んでたらしくって。周りの子たちが勝手に光莉が自分たちのことを見下してるって思ったらしくてさ。いじめじゃないけれど、仲間はずれみたいな。何をしてもグループに入ってない、そんな状態だったらしい。


透吾:つらいな。


朔太郎:しかも親が離婚して転校してきた理由もあることないこと噂されて。


透吾:光莉なら、説明したり反抗しようとしただろうけれど。それもさせてくれない状態だったってことか。


朔太郎:たぶんね。なんていうかそれすらも諦めたんだと思う。 あんまり笑った顔見たことなかったって、その知り合いが言ってた。


透吾:光莉が?笑ってない?


朔太郎:ちょっと不思議だったんだよね。その中学から通うには俺たちの高校って遠くてさ。なんでわざわざここに来たんだろうって当時思ったことあったんだ。


透吾:同じ中学の子がいないところに行きたかったんだろうな。


朔太郎:大人になって…ってまだまだ社会人でもないけれど、歳を重ねてくると、そんなことするのって馬鹿げてるし、やっちゃいけないことだってわかるけれど、当時はそれすらも気付けないんだろうね。


透吾:たった半年。されど半年。光莉が心を閉ざすのには十分な期間だ。集団だと余計つらいな。光莉、よく耐えたな……。


朔太郎:高校時代は楽しくしてたと思うけれど。でもときどき寂しそうな顔はしてたかも。


透吾:これからは俺らがいっぱい笑わせてやろうぜ。


朔太郎:できるかな。


透吾:大学もあと1年ちょっと。こんなにいっぱい一緒にいれるもの1年。これからどうなるか分からないけれど、1秒でも長く笑えるように。


朔太郎:そうだね。光莉が幸せであるように。


(以下、光莉の夢)

光莉:先生、これ。集めたノート持ってきました。あっいえ。ひとりで大丈夫でした。それと先生……やっぱり私、この前話した隣町の高校を受験します。遠いけど早起きすれば家から十分通える距離だし。高校のレベルも私の成績なら大丈夫っておっしゃってくれてましたし。……いえ、いいんです。もっと上を狙えるって言われたけれど、今の成績がいいのも前の中学の授業の方が進んでたからだと思うので。お母さんと二人だし、レベルの高いところに行って授業についていくために塾とか通うことも負担かけちゃうんで。知ってる人もいないけど……。ひとりでいいんです。…ひとりがいいんです。…はい。よろしくお願いします。


光莉M:待合室のソファーで疲れて深い深い眠りに落ちているときに見ていた夢は、なぜか中学の職員室で担任と話してるところだった。夢ではなくこれは記憶だ。負けてたまるか。明るいだけが取り柄だった私の、初めて真面目に自分で選んで自分のしたいことを突き進めようとした私の。きっと私の人生の分岐点。そんなことを再認識した夢だった。



【公園のベンチ】

透吾:あー就活やだー。


光莉:働かないと生きていけないよ。


透吾:このご時世、いろんな職業があってだな。なんとかなるらしい。


光莉:ふーん。


透吾:なんだよ、そのどうでもいい感じ。


光莉:透吾なら、人当たりの良さでどの分野でも生きていけそうなんだけどな。


透吾:うそ、それって褒めてる?


光莉:褒めてる。透吾はやったらできる人だよ。ちゃらんぽらんに見えてちゃんとやることはやる人。自信持っていいよ。


透吾:へ?……いやっ、そのっ。あーー。やめろ、真っ当に褒められるの慣れてないし。


光莉:なんで?ほんとのことじゃん。


透吾:いや、なんで、今日に限って。あいつめ…朔、なんで先に帰ったんだよ。軽く飲んで帰りにこの公園で反省会するのが定番なのに。


光莉:仕方ないでしょ。明日朝イチで面接あるんだって。


透吾:光莉はさ、どういうふうに働いていきたいの?


光莉:そうだなぁ…。正直、就活で絶対この会社で働きたいって思えるほどの特定の分野に情熱はなくって。でも……。ただ、人を支える仕事がしたいなって思う。


透吾:支える仕事?


光莉:最近、特にそう思うんだ。高校生ぐらいからは正直ひとりで踏ん張って生きてきたって思ってたの。結局はひとりぼっちだって。そう思ってた。


透吾:友達いただろ?それに朔も。


光莉:うん。友達はいたけど。朔は私がひとりで頑張ってるところを見守ってくれてるのわかってた。あえて口出しせずに、でも私がほんとにひとりにならないようにしてくれてた。


透吾:朔らしいな。


光莉:そうなの。ひとりぼっちだって思ってたの、私だけだった。


透吾:今は俺もいるしな。


光莉:ふふ。そのとおり。大学でできた友達もいるしね。


透吾:そうだな。


光莉:でもそういうふうに導いてくれたのは透吾と朔だよ。


透吾:……だから褒めたりするの、やめろって。照れんだろ。


光莉:ふふ。だからね、今度は私が誰かを支えて、その人の役に立ちたい。そしてもし自分はひとりぼっちなんだって思ってる人にはひとりじゃないよって伝えたい。まだ生きてきた時間は短いけれど、周りの人たちがそう思わせてくれたから、今度は私が返していきたい。


透吾:なんか……綺麗…だな。


光莉:……え?


透吾:は?いや…なんかそういうふうに言える光莉が綺麗だってこと。


光莉:心が?


透吾:心も。


光莉:ふふ。もしかして惚れた?


透吾:……はは。お前だって俺のこと好きだろ?


光莉:ふふ、そうね、大好き。


透吾:じゃあ、……キスでもしとく?


光莉:バカじゃないの?


透吾:そういうと思った。


透吾M:遠くを見ながら自分の想いを話す光莉の横顔はほんとに綺麗で。必死に誤魔化したけれど、ドキッとしていたのも事実。俺の顔がもしかして赤くなってたかもと考えると、昼間じゃなくてよかったと思った。公園の街灯に程よく照らされて、話をしながら見惚れていたその横顔がこっちを向いて笑っていることに、ただただ、嬉しくなっていた。



【卒業式】

朔太郎:とうとう今日で卒業か。


光莉:あっという間だったね。


透吾:なんか寂しいな…。もっと遊んどけば良かった。


光莉:十分遊んでたと思うけど。


朔太郎:そのとおり。


透吾:いやっ、まぁ…お二人よりは…ね?


光莉:単位ギリギリだったもんね?


透吾:ギリギリでも卒業は卒業。胸張っていいんだよ。


朔太郎:就職取消しにならなくて良かったね。


透吾:ほんとそれな。


光莉:なんかずっと3人でいたね。


朔太郎:飽きるぐらいね。


透吾:同じ大学で、同じ学部で、同じ専攻で。入学後すぐのガイダンスでたまたま席が近くなっただけなのに。


朔太郎:俺と光莉は初めから一緒にいたけどね。そこに透吾が入ってきただけだけど?


光莉:そのとおり。


透吾:まぁそう言うなよ。


朔太郎:卒業式で泣くなよ。


透吾:泣かねえよ。


光莉:一番感傷に浸るタイプのくせに。


朔太郎:楽しかったもんね、4年間。


光莉:真面目な話、二人がいたおかげでとっても楽しかった。幸せだったと思う。


朔太郎:いや、俺たちも光莉と一緒に過ごせて嬉しかったよ。


透吾:おい、やめろやめろ。ほんとに泣きそうになる。


光莉:ふふ。せっかくビシッと決めたスーツ着てるんだから、カッコつけとかないとね。


朔太郎:光莉、袴、似合ってるよ。綺麗。


光莉:ほんと?


朔太郎:ね?透吾。


透吾:お、おう。…似合ってる、すごく。


光莉:ほんと? 朝早くから着付けしてもらったから嬉しい。ありがと。


朔太郎:そろそろ式の開始時間じゃない?


透吾:えっ、もう? 俺、用足してきていい?


光莉:もう、早く行っておいでよ。


朔太郎:早くね。


透吾:おっけ。すぐ戻るっ。


光莉:……最後まで相変わらずだね。


朔太郎:それを憎めないのが透吾の良さだから。


光莉:ふふ。そうだね。


(少しの間をとる)


朔太郎:……ね、光莉。


光莉:ん?


朔太郎:卒業する前にひとつ気になってたこと、聞いていい?


光莉:なぁに?


朔太郎:ずっと持ってたあのボールペン、家族みたいな人から貰ったって言ってたけど。ほんとはさ……、好きな人からだったり…する?


光莉:……。


朔太郎:ごめんっ、変なこと聞いた。


光莉:初恋の人…かな。


朔太郎:…はつ…こい?


光莉:それで、……私を強くさせてくれる人。


朔太郎:……そっか。


光莉:うん。


朔太郎:光莉が持ちそうな色じゃないもんね、あの深い青?藍色っていうのかな。


光莉:そうだよね。


朔太郎:そっか。そうだよね。それは大事にするはずだよ。


光莉:うん。もう使いすぎてボロボロだけどね。持ってるだけでも強くいれるから。


朔太郎:わかった。変なこと聞いてごめん。


光莉:ううん。全然変なことじゃないよ。気になったんでしょ。


朔太郎:うん。……透吾、そろそろ戻るかな。


光莉:近くまで迎えに行ってみよっか。


朔太郎:そうしよ。


光莉:あっ、後で言い忘れたらダメだから、今言っとく。


朔太郎:なに?


光莉:朔、卒業おめでとう。


朔太郎:…光莉も。卒業おめでとう。


光莉:透吾にも言わなきゃ。


朔太郎:ふふ、そうだね。言わないと拗ねそうだからね。


透吾M:俺と朔太郎は仲間とか友達とか俺たちにぴったりな言葉は何か考えてみたけれど、どれもしっくりはこなくて。もちろんそれらも当てはまるのだけれど。あえて言えば同志であり、光莉を護る戦士であり、ライバルでもあった。俺たち3人はこれからそれぞれの道がまた始まる。それぞれが悔いのない人生を過ごせますように。少しでも長く笑っていられますように。



【卒業から半年後】

朔太郎:久しぶり。透吾。


透吾:おう。久しぶり。


朔太郎:なんかちょっと痩せた?


透吾:営業回り覚えんの、大変なんだよ。


朔太郎:そっか。


透吾:半年ぶりぐらいか?


朔太郎:うん。こっちで働いている光莉と透吾と、俺の出張のタイミングがあってやっと会えた。


透吾:それぞれ忙しくってタイミング合わなかったもんな。


朔太郎:光莉は?


透吾:あれじゃね?道路挟んで向かい側の歩道のとこにいるやつ。 誰かと話してる。…ってちょうど立ち去ったな。


朔太郎:ほんとだ。迎えにいこっか。


透吾:おう。


(光莉のいるところへ二人で向かう)


朔太郎:光莉。


透吾:久しぶり。


朔太郎:……光莉? どうしたの?


透吾:光莉?


光莉:……えっ、あっごめん。


朔太郎:どうしたの?


光莉:ううん、なんでもない。


透吾:俺らに会えたのが嬉しすぎて言葉が出なくなっちゃったか?


光莉:……うん。ごめんちょっとびっくりしちゃって。すごい久しぶりに会ったから。


朔太郎:そんなに?


光莉:あっいや、ほんとにごめん。気を使わせたよね? ごめん! はい、これお詫び!


透吾:あっこれ懐かしい。


朔太郎:レモンキャンディだ。


光莉:じゃあ、これ舐めながら予約してるお店に行こ。


透吾:そうするか。


光莉:あっちだから。


朔太郎:こうやって3人で歩くのも懐かしいね。


透吾:そうだな。


光莉:……そうだね。…懐かしいね。



透吾M:このとき俺は、3人で会えたのがただ嬉しくて。


光莉M:このとき私は、強い懐かしさにただ嬉しくて。


朔太郎M:このとき俺は、変わらない二人がただ嬉しくて。



光莉:ね、ちょっと泣きそう。すごく懐かしくて…。あとで泣いたら許して…ね。 




みつばちMoKo 台本置き場

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