I do . 〜アイ ドゥ〜 【女2】

題名『I do. 〜アイ ドゥ〜』GL版
声劇用 女性2名 目安30〜40分

神山 友梨(かみやま ゆり):会社員。仕事はできるが人間関係に関しては不器用。
清野 彩加(せいの あやか):フリーター。バーの常連。人懐っこくて温厚。

ある夜、バーで出会ったふたり。後のこの二人のある1日。

※タイトルの「I do」は結婚式で神父が言う誓いの言葉に対する返答の「はい、誓います」の意。



BL版もございます

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題名『I do. 〜アイ ドゥ〜』
作:みつばちMoKo
神山 友梨:
清野 彩加:
https://mokoworks.amebaownd.com/posts/22151685/


彩加:…早いね?

友梨:30分過ぎてる。

彩加:ふふ。いつものことじゃん。わかってたでしょ?
   それにちゃんと待っててくれてるじゃん。

友梨:まぁ、そうだけど。

彩加:待ち合わせなんて久しぶり。

友梨:そっちが待ち合わせしたいって言ったのに?

彩加:なんか新鮮でいいじゃん。

友梨:そういえば待ち合わせなんてしたことなかったね。

彩加:まぁ暗黙の了解で会ってたからね。

友梨:で、どこ行くの?

彩加:ちょっと予約したところがあるんだよね。そこに行こうと思って。
   その前に…少し買い物もしたいんだ。付き合って。

友梨:はいはい。

彩加:…こうやって歩いてるとデートしてるみたい。

友梨:普通に歩いてるだけだけどね。
   それに…はたから見たらただの友達に見えてると思う。

彩加:…そうだね。


【スーパーにて】

友梨:ここで何買うの?

彩加:何って食材。今日、何食べたい?

友梨:え? なんか作るの? 今日、どこ行くの?

彩加:泊まる用意はしてきてるよね?その大きめのカバンなら。

友梨:アヤが泊まれるようにしてこいって言ったんじゃん。

彩加:うん、そのとおり。泊まるとこで作るよ。ご飯は自炊するところなの。
   で、何食べたいの?

友梨:…シチュー。

彩加:ふふ。やっぱり。そういうと思った。
   見た目に似合わず、子供っぽいもの好きだよね。

友梨:うるさい。シチューは年齢に関係なく誰でも好きでしょ。
   それに…。アヤの作るシチュー…好きなんだもん。美味しいの。
   あっ、人参は入れないで。

彩加:ふふ。やっぱり子供じゃん。
   はいはい、かしこまりました。
   じゃあ、お肉からか。お肉コーナーは…あっちかな。

友梨:ねぇ。考えてみればこうやって一緒にご飯の材料の買い出しとかするの、初めてだね。

彩加:…そうだよ。そっちの家に行ってご飯はよく作るけど。
   なんかさ…一緒にしてみたかったんだよね、買い出し。
   そういうのも楽しいかなーって。

友梨:ふーん。まぁ…楽しいかも。

彩加:わかるよ。ウキウキしてるでしょ。

友梨:は?…してない。

彩加:だってキョロキョロ色んなもの見て、目がキラキラしてる。
   楽しいんだろうなって。

友梨:…キラキラって。
   してない、絶対。…してない。

彩加:だってほら、嘘つくときのクセ。また、耳触ってるよ。

友梨:えっ。はぁ…(ため息)
   …ちょっとは楽しいよ。ちょっとは、ね。

彩加:はいはい。ちょっとね。

友梨:ちょっと、カゴ貸して。重いでしょ。

彩加:え。別に大丈夫だよ。

友梨:いいから。貸して。

彩加:(つぶやくように小声で)…ほんと、そーいうところ。ずるいなぁ…。

友梨:ほら、あと何買えばいいの? 行こ。

彩加M:奪うようにカゴを取っていった彼女の耳は少し赤くて。
    一歩前を歩く華奢な背中に抱きつきたくなったのは内緒。
    あの時からずっと変わらない、この背中。


【とあるバー(回想)】

友梨:あー…なんか次、強めのものを。
   あー、うん、それで。

彩加:お姉さん。

友梨:(ため息)

彩加:お姉さんってば。

友梨:は?え?…私?

彩加:うん、お姉さんのこと。

友梨:え?なんか用?

彩加:お姉さん、ここのバー初めてでしょ。

友梨:まぁ、そうだけど。

彩加:何かあったの?飲み方が早いっていうか。なんか荒れてるっていうか。

友梨:まぁね、色々と。

彩加:ふーん。話、聞いてあげよっか。

友梨:なんでよ。初対面でしょ。

彩加:私、結構聞き上手だよ?癒すの得意なんだよね。隣、座っちゃおっと。

   で、どーしたの。

友梨:まぁ人生の岐路っていうか。そんな場面に差し掛かってる。

彩加:へぇ。じゃあ例えば…結婚とか?

友梨:まぁ、そんなとこ。

彩加:いやなの?結婚。

友梨:いやっていうか…。別にいいんだけど。
   結婚って、人生の墓場なんていう人もいるから。
   だから、このまま私の人生も何も面白味もなく過ぎていくのかなって思ってさ。

彩加:なるほどね。
   さっき後ろから見たら綺麗な背中なのに、なんか寂しげだったのはそのせいかな。

友梨:寂しげ?…寂しいの?私。

彩加:お姉さんさ、きっと色んなもの抱え過ぎてるんじゃない?
   背中にそれが表れてるよ。
   背中って無防備じゃん?戦う時も背後を取られるな、とか言うし。
   だから人の背中って意外とその人の本質が見えてたりするんだよ。

友梨:へぇ。面白いこというのね、あなた。
   楽しいとか嬉しいとかも背中に出るってことか。

彩加:うん。お姉さんも楽しいことしたらいいのに。

友梨:楽しいこと…、ね。

彩加:じゃあさ…。
   お姉さん…。私と一晩…過ごしてみない?

友梨:は?

彩加:お姉さん、知らなかったみたいだから教えてあげるけど。
   このバーはね、そういう出会いを求める人がくるの。

友梨:え?そういう出会いって。…そういうこと?

彩加:うん。そういうこと。

友梨:はぁぁ。知らなかった。

彩加:…で、どうする?私と過ごしてみる?
   今まで経験したことない、楽しいことがあるかもよ。

友梨:マジで?…。

彩加:それに私の感だと、お姉さん男女どっちもいけると思う。
   だからさ。私と一晩過ごしてみない?
   …もちろん、好きになってもいいよ。

彩加M:それが彼女との出会い。最後の一言は私の常套句みたいなもので。
    でも彼女に惹かれたから声をかけたのは事実。
    寂しそうなその華奢な背中を、私が抱きしめて暖めてあげたいと思ったんだ。


【コテージ(現在)】

彩加:あれ?もう荷物置いてきたの。休憩してていいのに。

友梨:こんなとこ、借りたのね。コテージなんて高いでしょ。

彩加:へへ。大丈夫。たまにはね、こういうとこもいいかなって。

友梨:だから、食材買ったんだ。

彩加:そう。もう夕方だし、そろそろ作んないと。座ってていいよ。

友梨:ううん、見てる。

彩加:…なんか見られてると緊張するんですけど…。切り方がおおざっばになりそう…。

友梨:料理、うまいよね、アヤ。アヤのつくるご飯、なんでも美味しい。

彩加:…だって。だって、何か得意なことがないと生きてこれなかったから。
   胃袋を掴むっていうやつ?それで生きてきたから。

友梨:そっか。…私も胃袋を掴まれたうちの一人だな。
   まぁ、それだけでこんなふうにはなってないけど。

彩加:私の策略にはまってくれたんだ。

友梨:アヤ、服…。ちょっとそのままで。
   ちゃんと袖口まくんなよ。濡れちゃうでしょ。まくってあげる。

彩加:あー…急いで作らなきゃって思ったから。

友梨:ほら、そっちも。

彩加:…優しいね。

友梨:は?…優しくなんかない。

彩加:ふふ。照れちゃって。ありがと。

友梨:…うん。
   アヤ、さ。今まで付き合った人にもこうやってご飯作ってたの?

彩加:まぁ、うん。そう。

友梨:ふーん。

彩加:なに?

友梨:アヤの美味しいご飯を他の人も食べてたのかと思うと…ね。

彩加:えっ。…もしかして。ヤキモチ?

友梨:ちがっ。…ただ、アヤのご飯を食べられていいなって思っただけ。

彩加:ふふ。そっか。ふーん。そっか。

友梨:なに。

彩加:自分ではうまく隠せたって思ってることも、実はダダ漏れだったりするんだよ?人間って。

友梨:どういう意味なの。

彩加:ふふ。まあいいよ。ね。ちょっと手伝って。

友梨:は?私、料理できないよ。

彩加:大丈夫。簡単な作業してもらうから。
   そこにレタス、あるでしょ。食べやすい大きさにちぎって。

友梨:手で?

彩加:うん。あと粉チーズ作って。ほら、そこにある削り器で。

友梨:これね。わっ、簡単に粉チーズ作れるんだ、これ使うと。

彩加:でしょ。

友梨:これ、なに作ってるの?

彩加:シーザーサラダ。好きでしょ?

友梨:好き。

彩加:……なんかドキッとした。

友梨:え?

彩加:いや、なんでもない。
   なんか、嬉しいな。こうやって一緒にご飯作るの。
   いっつも仕事で疲れてるから、動けないもんね。

友梨:作るの、任せっきりでごめん。

彩加:いいよ。好きだもん。

友梨:……私だって。ドキドキするんだけど。

彩加:え?
   あーでもこれからは作ってもらったら、ちゃんとありがとうっていう気持ち、伝えた方がいいよ。
   その方が相手は喜ぶ。

友梨:…そうだね。そうする。


【食後、ダイニングにて】

友梨:ごちそうさま。今日もおいしかった。

彩加:どういたしまして。
   じゃ、片付けるね。向こうの部屋でくつろいでて。

友梨:…ううん、なんか手伝う。

彩加:…めずらし。じゃあ、洗ったお皿、拭いてほしいな。

友梨:わかった。

彩加:じゃあ、こっちで。

(少し間をとる)

友梨:ねぇ。アヤ、あのバー、これからも通う?

彩加:うーん。どうかな。通う…かもしれない。

友梨:その…やめた方がいいんじゃない?

彩加:なんで?

友梨:だって、あそこはそういう…。

彩加:うん。私たちもあそこで出会ったからね。

友梨:いや、アヤは。…なんていうか、流されやすいから。

彩加:私だって人は選んでるよ。誰でもいいわけじゃない。

友梨:ほんとに?私にも声かけたのに?
   そんなんじゃ、これからもずっとこうじゃない?

彩加:……なにそれ。私のことそんなふうに思ってたの。
   誰彼かまわず…友梨のことも適当に声かけたって思ってるんだ。

友梨:だってアヤは…

彩加:それに友梨と出会ってからは他の人に声かけたりしてないよ。
   知ってるでしょ?

友梨:だけど…

彩加:(かぶせ気味に)もういい。

(彩加、別の部屋へ移動する)

友梨:ちょっと待って。

   …待ってってば。


【ベッドルーム】

彩加:…友梨。

   友梨? 寝ちゃった?

   ごめんね。
   あんなことで怒るなんて、大人気ないよね。

   お風呂、入った?
   …入ったよね。さっき音がしてた。

   ほんとごめんね。

友梨:…寝てない。

彩加:…起きてたんだ。

友梨:あのまま寝れるわけない。
   お風呂で色々考えたけど、悪いのは…私。…ごめん。

彩加:ううん。心配してくれたんでしょ?私のこと。
   ありがとね。こっちこそごめん。

友梨:近くに来て。

   …髪の毛が濡れてる。アヤもお風呂入ったの?

彩加:ううん、シャワーだけ。水で頭冷やしてきた。

友梨:ばか。風邪引くでしょ。

彩加:ふふ。口調と違ってほんとは優しいよね。

友梨:優しいのはアヤにだけ。

彩加:…ねぇ…そうやってときどきキュンとさせるの、無自覚?

友梨:キュン?…自分ではわかんない。

彩加:…ずるいなぁ。

友梨:布団入って。

彩加:うん。

友梨:ごめんね。。こんな私で。

彩加:ううん。私こそごめんね。

友梨:アヤのおかげでだいぶ柔らかくなったと思ってたけど。まだまだだね。
   こんなんでこれから私、大丈夫なのかな?…。

彩加:大丈夫だよ。
   出会った頃より、ほら、自分のこと見つめ直せるようになってるでしょ。

友梨:まぁ確かに。

彩加:今は背中に硬さがなくなったよ。

友梨:背中…ね。

彩加:出会った日はなんか寂しい背中してたの。だから気になって声かけたんだ。

友梨:そういえば、あの日、そんな話をしたかも。
   私の方が身長大きいのに、中身はスカスカ。アヤの器の方が大きい。

彩加:それって褒めてる?

友梨:…褒めてる。

彩加:ふふ。ほんと分かりにくいなぁ。…ありがと。

友梨:アヤに、もっと早く出会いたかったな…。

彩加:…どうして?

友梨:んー。そしたらもっとまともな人間になってたかもって。

彩加:いや、私はまともな人間じゃないし。
   生きていくためにバーで女の人をひっかけているようなやつだよ?

友梨:なんていうかさ。
   きっと私とかそこらの連中より辛い経験いっぱいしてきてるんだろうね。
   だから、人を許せる。見守ってる。
   私もアヤにいつも守られてる気がしてるんだ。

彩加:そんなたいした人間じゃないよ。

友梨:いや、少なくとも私は助けられてる。ありがとね。

彩加:ううん。
   今日、どうしたの?優しいね?お礼とか滅多に私に言わないのに。

友梨:ほら、お礼言わないって思われてる時点でダメな人間でしょ?

彩加:まぁ、それが友梨って思ってるからいいんだけど。

友梨:だから、それを気付かさせてくれたのもアヤなの。感謝してる。

彩加:ふふ。どういたしまして。
   …ね、後ろから抱きついていい?

友梨:後ろから?

彩加:うん。背中に抱きつきたい。

友梨:いいけど。

(背中に抱きつく)

彩加:ふふ。あったかいね。

友梨:お風呂入ったからね。
   私も背中あったかいよ。

彩加:ずっとくっついていたいな。

友梨:いいんじゃない?今日はそうしてても。

彩加:そうだね。ここは静かで、暖かくて。
   そしてふたりっきりだもんね。

友梨:再来週…出席する?

彩加:しないよ。

友梨:そう。

彩加:うん。絶対行かない。

友梨:…そっか。

   どうしたの?ギュッて抱きつく力が強くなった。

彩加:あー。なんか無意識。

友梨:寂しいの?

彩加:なに言ってんの。寂しい背中してたのは、そっちのくせに。

友梨:今はもう、違うんでしょ?

彩加:…うん。今は私を暖めてくれる幸せな背中だよ。

友梨:幸せ…、か。
   そう思ってくれてるんなら嬉しいな。私でも誰かを幸せにできてるなら。

彩加:うん。幸せだよ。こうやっていれば…ずっと。

友梨:幸せってなんだろね。分からなくなってきた。
   みんなに幸せそうって言われても、本人はそうじゃないこともある。
   私にとってはアヤと一緒にいると心がほわっとするのが幸せなんじゃないかって。
   そう考えたりする。

彩加:自分自身が幸せだって思ったら、それがそうなんだよ。
   願わくばそれがずっと続けばいいけれど。

友梨:…そうだね。このままずっと…。

彩加:うん、このままずっと…。

友梨:泣いても…いいよ。

彩加:泣かないよ。
   泣いても何も変わらない。未来は…変わらない。


友梨M:しばらくの沈黙のあと、二人ともまるで何かを忘れるように何度もつながった。
    私もアヤもまだ足りないと求めて、また求めて。私の全てをぶつけた。


【翌朝リビングにて】

彩加:起きたの?…おはよ。
   早いね。まだ日が出たばっかりだよ。

友梨:…おはよ。
   ベッドにいないから、びっくりした。
   シーツにくるまってこんなとこで何してるの。

彩加:外、見てた。泊まるとこ探してたとき、ここ朝焼けが綺麗だっていうから。
   ほら、みて。

友梨:…ほんとだ。綺麗。

彩加:目の前が湖でさ。陽の光が当たって綺麗だよね。
   こっちの壁が、ほぼ一面窓っていうのがいい。

友梨:うん。

彩加:一緒に見れて、よかった。ね、となり座って。

友梨:よいしょっと。

(少しの間をとる)

彩加:……明日から、ちゃんと生きていける?

友梨:…それはこっちのセリフ。
   アヤこそ、ちゃんと生きていける?

彩加:…うん。大丈夫。
   楽しかったね。色々と。

友梨:…うん。楽しかった。

彩加:昨日もね、ずっとやりたかったことをしたの。
   当たり前のように待ち合わせをして、当たり前のように一緒に買い物して。
   ご飯一緒に作るのも、ちょっと喧嘩するのも。
   普通のカップルみたいで、楽しかった。

友梨:アヤ、ちっちゃい人参、シチューにこっそり入れたでしょ。

彩加:目立つほど大きくないもん。好き嫌いはダメだよ。

友梨:アヤとずっと一緒だったら、そのうちうまい具合に騙されて、嫌いなものも食べられるようになりそう。

彩加:そうだね。ずっと一緒だったら…ね。
   これからは、疲れてるからってソファーで寝ちゃダメだよ。

友梨:わかってる。

彩加:ときどき口悪くなるの、気をつけてね。

友梨:…努力する。

彩加:意外と小心者だからね、お化けとかに遭遇しないといいね。

友梨:一生、遭遇しなくていいよ。

彩加:それと。
   …嘘つくとき、耳さわるクセ、他の人にバレないようにね。

友梨:アヤ以外にはバレないよ。

(少し間をとる)

友梨:…ほんとここは、静か。

彩加:そうだね、都会から離れてるしね。
   あのね。窓から真っ直ぐみたとこの、ちょっと右。大きな木があるとこ、みて。

友梨:どこ?

彩加:ほら、大きな木とその横にある木の枝が交差してるとこ。

友梨:…あぁ。ちょうどクロスしてるとこ?

彩加:うん、そう。…十字架みたいじゃない?
   湖に映ってるから、湖面みて。そしたら余計、そう見えない?

友梨:あー、ほんとだ。十字架みたい。

彩加:そう。だから、ここからみる景色が教会みたいだっていう評判なんだよね。

友梨:…だからこのコテージを選んだの?

彩加:教会なんて私には一生縁のないものだから。

友梨:…一緒に行ければよかったんだけどね。

彩加:そういうこというの、ずるい。

友梨:…そうだね。

彩加:ね、ちょっと向かい合ってくれる?

   それで…手、貸して。
   私の手に、手を乗っけて。
   私の右手に左手を。私の左手に右手を。

   うん、そう。
   ちょっと軽く握るね。

   おままごとだと思って、付き合って。

   友梨…。
   健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?

友梨:それって…。
   ……はい、誓います。

彩加:ふふ。ちゃんと返事してくれた。

友梨:これもアヤのしたかったこと?

彩加:うん。偽物の結婚式だけどね。

友梨:そっか。じゃ、今度は握り方を逆にしよ。
   私の手の上にそっちの手を乗せて。

   彩加…。
   健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?

彩加:はい、誓います。

友梨:ふふ。即答だね。

彩加:こういうときだけ、ちゃんと名前呼ぶんだから、ずるい。

友梨:そうだね…。ずるい女だね、私は。

彩加:知ってる。

…それでは、最後に誓いのハグを。

(ハグをする)

ありがと。…愛してる。

友梨:…彩加。

彩加:愛してるって言葉にしなくていい。
   代わりに最後に…力いっぱい…抱きしめて。

友梨M:私の温もりと匂いが消えないよう、ずっと抱きしめていたかった。

彩加M:骨が折れるかと思うぐらい、しばらく私は抱きしめられていた。

友梨M:時が止まればいいのに。

彩加M:そう思っていた。


【友梨の結婚式場にて】

友梨M:絶対来ないと言っていたけれど、もしかしたら来てるんじゃないかと思って辺りを見回していた。…彼女の匂いがした気がした。

友梨:やっぱり来てないか…。
   お願い。…幸せでいてね。

彩加:ふふ…。なんで、耳さわってんの。
   …バカ。ずっとお幸せに…ね。

彩加M:絶対行かないと言っていた結婚式に私は来ていた。
    といっても、遠くから覗くようにしていただけだけど。
    彼女はとても幸せそうに見えた。そう見えただけかもしれないと心のどこかで願っていた。


【数年後】

友梨:(子供と会話)え? 幼稚園に好きな子がいるの?
   そう…。…好きな人がいるだけで毎日楽しくて幸せでしょ?

   んー?…そうだね、ママは幸せよ。
   最愛の人がいれば幸せに生きていけるの。
   …たとえ、一緒にいた時間が短くても。たとえ、その人が近くにいなくても。
   でも、後からその気持ちに気づくこともある。
   胸の痛みもその人を愛した証拠だから、ずっと消えなくていいのよ。

   だから…。
   だから、あなたも“この人となら“、と思う人と巡りあえるように、祈ってる。


彩加:ねぇ、お姉さん。
   私と一晩、過ごしてみない?

   あっ。だけど好きになるのは、なしね。
   ちょっと誓いをたててる人がいるから。

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