I do . 〜アイ ドゥ〜 【男2】

題名『I do. 〜アイ ドゥ〜』BL版
声劇用 男性2名 目安30〜40分

橋詰 海里(はしづめ かいり):会社員。仕事はできるが人間関係に関しては不器用。
青柳 昂佑(あおやぎ こうすけ):フリーター。バーの常連。人懐っこくて温厚。

ある夜、バーで出会ったふたり。後のこの二人のある1日。

※タイトルの「I do」は結婚式で神父が言う誓いの言葉に対する返答の「はい、誓います」の意。



GL版もございます

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題名『I do. 〜アイ ドゥ〜』
作:みつばちMoKo
橋詰 海里:
青柳 昂佑:
https://mokoworks.amebaownd.com/posts/22151517/



昂佑:…早いね?

海里:30分過ぎてる。

昂佑:ふふ。いつものことじゃん。わかってたでしょ?
   それにちゃんと待っててくれてるじゃん。

海里:まぁ、そうだけど。

昂佑:待ち合わせなんて久しぶり。

海里:そっちが待ち合わせしたいって言ったのに?

昂佑:なんか新鮮でいいじゃん。

海里:そういえば待ち合わせなんてしたことなかったな。

昂佑:まぁ暗黙の了解で会ってたからね。

海里:で、どこ行くの?

昂佑:ちょっと予約したところがあるんだよね。そこに行こうと思って。
   その前に…少し買い物もしたいんだ。付き合って。

海里:はいはい。

昂佑:…こうやって歩いてるとデートしてるみたい。

海里:普通に歩いてるだけだけどな。
   それに…はたから見たらただの友達に見えてるだろ。

昂佑:…そうだね。


【スーパーにて】

海里:ここで何買うんだ?

昂佑:何って食材。今日、何食べたい?

海里:え? なんか作るのか? 今日、どこ行くんだ?

昂佑:泊まる用意はしてきてるよね?その大きめのカバンなら。

海里:お前が泊まれるようにしてこいって言ったんじゃん。

昂佑:ん。そのとおり。泊まるとこで作る。ご飯は自炊するところなの。
   で、何食べたい?

海里:…ハンバーグ。

昂佑:ふふ。やっぱり。そういうと思った。
   見た目に似合わず、子供っぽいもの好きだよね。

海里:うるさい。ハンバーグは年齢に関係なく誰でも好きだろ。
   それに…。お前の作るハンバーグ…好きなんだよ。うまい。
   あっ、付け合わせに人参はつけるなよ。

昂佑:ふふ。やっぱり子供じゃん。
   はいはい、かしこまりました。
   じゃあ、ひき肉ひき肉。お肉コーナーは…あっちかな。

海里:なぁ。考えてみればこうやって一緒にご飯の材料の買い出しとかするの、初めてだな。

昂佑:…そうだよ。そっちの家に行ってご飯はよく作るけど。
   なんかさ…一緒にしてみたかったんだよね、買い出し。
   そういうのも楽しいかなーって。

海里:ふーん。まぁ…楽しいな。

昂佑:わかるよ。ウキウキしてるでしょ。

海里:は?…してない。

昂佑:だってキョロキョロ色んなもの見て、目がキラキラしてる。
   楽しいんだろうなって。

海里:…キラキラって。
   してないぞ、絶対。…してない。

昂佑:だってほら、嘘つくときのクセ。また、顎触ってるよ。

海里:なっ。はぁ…(ため息)
   …ちょっとは楽しいよ。ちょっとは、な。

昂佑:はいはい。ちょっとね。

海里:ちょっと、カゴ貸せ。重いだろ

昂佑:え。別に大丈夫だよ。俺だって男だよ?

海里:いいから。貸せ。

昂佑:(つぶやくように小声で)…ほんと、そーいうところ。ずるいなぁ…。

海里:ほら、あと何買うんだ。行くぞ。

昂佑M:奪うようにカゴを取っていった彼の耳は少し赤くて。
    一歩前を歩く広い背中に抱きつきたくなったのは内緒。
    あの時からずっと変わらない、この背中。


【とあるバー(回想)】

海里:あー…なんか次、強めのものを。
   あー、うん、それで。

昂佑:お兄さん。

海里:(ため息)

昂佑:お兄さんってば。

海里:は?え?…俺?

昂佑:うん、お兄さんのこと。

海里:え?なんか用?

昂佑:お兄さん、ここのバー初めてでしょ。

海里:まぁ、そうだけど。

昂佑:何かあったの?飲み方が早いっていうか。なんか荒れてるっていうか。

海里:まぁね、色々と。

昂佑:ふーん。話、聞いてあげよっか。

海里:なんでだよ。初対面だろ。

昂佑:俺、結構聞き上手だよ? 癒すの得意。隣、座っちゃおっと。

   で、どーしたの。

海里:まぁ人生の岐路っていうか。そんな場面に差し掛かってる。

昂佑:へぇ。じゃあ例えば…結婚とか?

海里:まぁ、そんなとこ。

昂佑:いやなの?結婚。

海里:いやっていうか…。別にいいんだけど。
   結婚って、人生の墓場なんていう人もいるから。
   だから、このまま俺の人生も何も面白味もなく過ぎていくのかって思ってさ。

昂佑:なるほどね。
   さっき後ろから見たら広い背中なのに、なんか寂しげだったのはそのせいかな。

海里:寂しげ?…寂しいのか?俺。

昂佑:お兄さんさ、きっと色んなもの抱え過ぎてるんじゃない?
   広い背中にそれが表れてるよ。
   背中って無防備じゃん?戦う時も背後を取られるな、とか言うし。
   だから人の背中って意外とその人の本質が見えてたりするんだよ。

海里:へぇ。面白いこというね、お前。
   楽しいとか嬉しいとかも背中に出るってことか。

昂佑:うん。お兄さんも楽しいことしたらいいのに。

海里:楽しいこと…、ね。

昂佑:じゃあさ…。
   お兄さん…。俺と一晩…過ごしてみない?

海里:は?

昂佑:お兄さん、知らなかったみたいだから教えてあげるけど。
   このバーはね、そういう出会いを求める人がくるの。

海里:は?そういう出会いって。…そういうこと?

昂佑:うん。そういうこと。

海里:はぁぁ。知らなかった。

昂佑:…で、どうする?俺と過ごしてみる?
   今まで経験したことない、楽しいことがあるかもよ。

海里:マジか…。

昂佑:それに俺の感だと、お兄さん男女どっちもいけると思う。
   だからさ。俺と一晩過ごしてみない?
   …もちろん、好きになってもいいよ。

昂佑M:それが彼との出会い。最後の一言は俺の常套句みたいなもんで。
    でも彼に惹かれたから声をかけたのは事実。
    寂しそうなその広い背中を、俺が抱きしめて暖めてあげたいと思ったんだ。


【コテージ(現在)】

昂佑:あれ?もう荷物置いてきたの。休憩してていいのに。

海里:こんなとこ、借りたのか。コテージなんて高いだろ。

昂佑:へへ。大丈夫だよ。たまにはね、こういうとこもいいかなって。

海里:だから、食材買ったのか…。

昂佑:そう。もう夕方だし、そろそろ作んないと。座ってていいよ。

海里:いや、見てる。

昂佑:…なんか見られてると緊張するんですけど。みじん切りが大きくなりそう…。

海里:料理、うまいよな、お前。お前のつくる飯(めし)、なんでもうまい。

昂佑:…だって。だって、何か得意なことがないと生きてこれなかったから。
   胃袋を掴むっていうやつ?それで生きてきたから。

海里:そっか。…俺も胃袋を掴まれたうちの一人だな。
   まぁ、それだけでこんなふうにはなってないけど。

昂佑:俺の策略にはまってくれたんだ。

海里:お前、服…。ちょっとそのままでいろ。
   ちゃんと袖口まくれよ。濡れちゃうだろ。まくってやる。

昂佑:あー…急いで作らなきゃって思ったから。

海里:ほら、そっちも。

昂佑:…優しいね。

海里:は?…優しくなんかない。

昂佑:ふふ。照れちゃって。ありがと。

海里:…あぁ。
   お前、さ。今まで付き合った人にもこうやって飯作ってたのか?

昂佑:まぁ、うん。そう。

海里:ふーん。

昂佑:なに?

海里:お前のうまい飯を他のやつも食ってたのかと思うと…な。

昂佑:えっ。…もしかして。ヤキモチ?

海里:ちがっ。…ただ、お前の飯を食えていいなって思っただけだ。

昂佑:ふふ。そっか。ふーん。そっか。

海里:なんだよ。

昂佑:自分ではうまく隠せたって思ってることも、実はダダ漏れだったりするんだよ?人間って。

海里:どういう意味だよ。

昂佑:ふふ。まあいいや。ね。ちょっと手伝って。

海里:は?俺、料理できないぞ。

昂佑:大丈夫。簡単な作業してもらうから。
   そこに茹でたじゃがいもがあるでしょ?それをつぶして欲しいんだ。

海里:手で?

昂佑:ふふ。いや、つぶす調理器具があるから、それで。ほら、そこにあるやつ。

海里:これか。おっ、簡単につぶれるんだな、これ使うと。

昂佑:でしょ。

海里:これ、なに作ってるんだ?

昂佑:マッシュポテト。好きでしょ?

海里:好き。

昂佑:……なんかドキッとした。

海里:え?

昂佑:いや、なんでもない。
   なんか、嬉しいな。こうやって一緒にご飯作るの。
   いっつも仕事で疲れてるから、動けないもんね。

海里:作るの、任せっきりですまん。

昂佑:いいよ。好きだもん。

海里:……俺だって。ドキドキするんだぞ。

昂佑:え?
   あーでもこれからは作ってもらったら、ちゃんとありがとうっていう気持ち、伝えた方がいいよ。
   その方が相手は喜ぶ。

海里:…そうだな。そうするよ。


【食後、ダイニングにて】

海里:ごちそうさま。今日も美味かった。

昂佑:どういたしまして。
   じゃ、片付けるね。向こうの部屋でくつろいでて。

海里:…いや、なんか手伝う。

昂佑:…めずらし。じゃあ、洗ったお皿、拭いてほしい。

海里:わかった。

昂佑:じゃあ、こっちで。

(少し間をとる)

海里:なぁ。お前、あのバー、これからも通う?

昂佑:うーん。どうかな。通う…かもしれない。

海里:その…やめた方がいいんじゃないか?

昂佑:なんで?

海里:だって、あそこはそういう…。

昂佑:うん。俺らもあそこで出会ったからね。

海里:いや、お前さ。…なんていうか、流されやすいから。

昂佑:俺だって人は選んでるよ。誰でもいいわけじゃない。

海里:ほんとに?俺にも声かけたのに?
   そんなんじゃ、これからもずっとこうだろ。

昂佑:……なにそれ。俺のことそんなふうに思ってたの。
   誰彼かまわず…海里のことも適当に声かけたって思ってるんだ。

海里:だってお前は…

昂佑:それに海里と出会ってからは他の人に声かけたりしてないよ。
   知ってるでしょ?

海里:だけど…

昂佑:(かぶせ気味に)もういい。

(昂佑、別の部屋へ移動する)

海里:ちょっと待て。

   …待てってば。


【ベッドルーム】

昂佑:…海里。

   海里? 寝ちゃった?

   ごめんね。
   あんなことで怒るなんて、大人気ないよね。

   お風呂、入った?
   …入ったよね。さっき音がしてた。

   ほんとごめんね。

海里:…寝てない。

昂佑:…起きてたんだ。

海里:あのまま寝れるわけない。
   風呂で色々考えたけど、悪いのは…俺だ。…すまん。

昂佑:ううん。心配してくれたんでしょ?俺のこと。
   ありがとね。こっちこそごめん。

海里:近くに来てくれ。

   …髪の毛が濡れてる。お前もお風呂入ったのか。

昂佑:いや、シャワーだけ。水で頭冷やしてきた。

海里:ばか。風邪引くだろ。

昂佑:ふふ。口調と違ってほんとは優しいよね。

海里:優しいのはお前にだけだ。

昂佑:…ねぇ…そうやってときどきキュンとさせるの、無自覚?

海里:キュン?…自分ではわからん。

昂佑:…ずるいなぁ。

海里:布団入って。

昂佑:うん。

海里:ごめんな。こんな俺で。

昂佑:ううん。俺こそごめんね。

海里:お前のおかげでだいぶ柔らかくなったと思ってたけど。まだまだだな。
   こんなんでこれから俺、大丈夫なのか?…。

昂佑:大丈夫だよ。
   出会った頃より、ほら、自分のこと見つめ直せるようになってるでしょ。

海里:まぁ確かに。

昂佑:今は背中に硬さがなくなったよ。

海里:背中…ね。

昂佑:出会った日はなんか寂しい背中してたんだ。だから気になって声かけた。

海里:そういえば、あの日、そんな話をしたなぁ。
   俺の方がでかい図体してるのに、中身はスカスカだ。お前の器の方がでかい。

昂佑:それって褒めてる?

海里:…褒めてる。

昂佑:ふふ。ほんと分かりにくいなぁ。…ありがと。

海里:お前に、もっと早く出会いたかったな…。

昂佑:…どうして?

海里:んー。そしたらもっとまともな人間になってたかもって。

昂佑:いや、俺はまともな人間じゃないし。
   生きていくためにバーで男をひっかけているようなやつだよ?

海里:なんていうかさ。
   きっと俺とかそこらの連中より辛い経験いっぱいしてきてるんだろうな。
   だから、人を許せる。見守ってる。
   俺もお前にいつも守られてる気がしてるんだ。

昂佑:そんなたいした人間じゃないよ。

海里:いや、少なくとも俺は助けられてる。ありがとな。

昂佑:ううん。
   今日、どうしたの?優しいね?お礼とか滅多に俺に言わないのに。

海里:ほら、お礼言わないって思われてる時点でダメなやつだろ?

昂佑:まぁ、それが海里って思ってるからいいんだけど。

海里:だから、それを気付かさせてくれたのもお前だからな。感謝してる。

昂佑:ふふ。どういたしまして。
   …ね、後ろから抱きついていい?

海里:後ろから?

昂佑:うん。背中に抱きつきたい。

海里:いいけど。

(背中に抱きつく)

昂佑:ふふ。あったかいね。

海里:お風呂入ったからな。
   俺も背中あったかいよ。

昂佑:ずっとくっついていたいな。

海里:いいんじゃないか?今日はそうしてても。

昂佑:そうだね。ここは静かで、暖かくて。
   そしてふたりっきりだもんね。

海里:再来週…出席するか?

昂佑:しないよ。

海里:そうか。

昂佑:うん。絶対行かない。

海里:…そうか。

   どうした?ギュッて抱きつく力が強くなったな。

昂佑:あー。なんか無意識。

海里:寂しいのか?

昂佑:なに言ってんの。寂しい背中してたのは、そっちのくせに。

海里:今はもう、違うんだろ?

昂佑:…うん。今は俺を暖めてくれる幸せな背中だよ。

海里:幸せ…、か。
   そう思ってくれてるんなら嬉しいな。俺でも誰かを幸せにできてるなら。

昂佑:うん。幸せだよ。こうやっていれば…ずっと。

海里:幸せってなんだろな。分からなくなってきた。
   みんなに幸せそうだなって言われても、本人はそうじゃないこともある。
   俺にとってはお前を一緒にいると心がほわっとするのが幸せなんじゃないかって。
   そう考えたりする。

昂佑:自分自身が幸せだって思ったら、それがそうなんだよ。
   願わくばそれがずっと続けばいいけれど。

海里:…そうだな。このままずっと…。

昂佑:うん、このままずっと…。

海里:泣いても…いいぞ。

昂佑:泣かないよ。
   泣いても何も変わらない。未来は…変わらない。


海里M:しばらくの沈黙のあと、二人ともまるで何かを忘れるように何度もつながった。
    俺もこいつもまだ足りないと求めて、また求めて。俺の全てを注ぎ込んだ。


【翌朝リビングにて】

昂佑:起きたの?…おはよ。
   早いね。まだ日が出たばっかりだよ。

海里:…はよ。
   ベッドにいないから、びっくりした。
   シーツにくるまってこんなとこで何してんだ。

昂佑:外、見てた。泊まるとこ探してたとき、ここ朝焼けが綺麗だっていうから。
   ほら、みて。

海里:…ほんとだ。綺麗だな。

昂佑:目の前が湖でさ。陽の光が当たって綺麗だよね。
   こっちの壁が、ほぼ一面窓っていうのがいい。

海里:あぁ。

昂佑:一緒に見れて、よかった。ね、となり座って。

海里:よっと。

(少しの間をとる)

昂佑:……明日から、ちゃんと生きていける?

海里:…それはこっちのセリフ。
   お前こそ、ちゃんと生きていけるか?

昂佑:…うん。大丈夫。
   楽しかったね。色々と。

海里:…あぁ。楽しかった。

昂佑:昨日もね、ずっとやりたかったことをしたんだ。
   当たり前のように待ち合わせをして、当たり前のように一緒に買い物して。
   ご飯一緒に作るのも、ちょっと喧嘩するのも。
   普通のカップルみたいで、楽しかった。

海里:お前、人参刻んでハンバーグにこっそり入れただろ。

昂佑:付け合わせにはしてないもん。好き嫌いはダメだよ。

海里:お前とずっと一緒だったら、そのうちうまい具合に騙されて、嫌いなものも食べられるようになりそうだな。

昂佑:そうだね。ずっと一緒だったら…ね。
   これからは、疲れてるからってソファーで寝ちゃダメだよ。

海里:わかってる。

昂佑:ときどき口悪くなるの、気をつけてね。

海里:…努力する。

昂佑:意外と小心者だからね、お化けとかに遭遇しないといいね。

海里:一生、遭遇しなくていい。

昂佑:それと。
   …嘘つくとき、顎さわるクセ、他の人にバレないようにね。

海里:お前以外にはバレないよ。

(少し間をとる)

海里:…ほんとここは、静かだな。

昂佑:そうだね、都会から離れてるしね。
   あのさ。窓から真っ直ぐみたとこの、ちょっと右。大きな木があるとこ、みて。

海里:どこだ?

昂佑:ほら、大きな木とその横にある木の枝が交差してるとこ。

海里:…あぁ。ちょうどクロスしてるとこか。

昂佑:うん、そう。…十字架みたいじゃない?
   湖に映ってるから、湖面みて。そしたら余計、そう見えない?

海里:あぁ、ほんとだ。十字架みたいだな。

昂佑:そう。だから、ここからみる景色が教会みたいだっていう評判なんだよ。

海里:…だからこのコテージを選んだのか。

昂佑:教会なんて俺には一生縁のないものだから。

海里:…一緒に行ければよかったんだけどな。

昂佑:そういうこというの、ずるい。

海里:…そうだな。

昂佑:ね、ちょっと向かい合ってくれる?

   それで…手、貸して。
   俺の手に、手を乗っけて。
   俺の右手に左手を。俺の左手に右手を。

   うん、そう。
   ちょっと軽く握るね。

   おままごとだと思って、付き合って。

   海里…。
   健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?

海里:お前、それって…。
   ……はい、誓います。

昂佑:ふふ。ちゃんと返事してくれた。

海里:これもお前のしたかったこと?

昂佑:うん。偽物の結婚式だけどね。

海里:そうか。じゃ、今度は握り方を逆にして。
   俺の手の上にお前の手を乗せてくれ。

   昂佑…。
   健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?

昂佑:はい、誓います。

海里:はは。即答だな。

昂佑:こういうときだけ、名前呼ぶんだから、ずるい。

海里:そうだな…。ずるい男だな、俺は。

昂佑:知ってる。

   …それでは、最後に誓いのハグを。

(ハグをする)

   ありがと。…愛してる。

海里:…昂佑。

昂佑:愛してるって言葉にしなくていい。
   代わりに最後に…力いっぱい…抱きしめて。

海里M:俺の温もりと匂いが消えないよう、ずっと抱きしめていたかった。

昂佑M:骨が折れるかと思うぐらい、しばらく俺は抱きしめられていた。

海里M:時が止まればいいのに。

昂佑M:そう思っていた。


【海里の結婚式場にて】

海里M:絶対来ないと言っていたけれど、もしかしたら来てるんじゃないかと思って辺りを見回していた。…あいつの匂いがした気がした。

海里:やっぱり来てないか…。
   頼む。…幸せでいてくれ。

昂佑:はは…。なんで、顎さわってんの。
   …バカ。ずっと幸せに…ね。

昂佑M:絶対行かないと言っていた結婚式に俺は来ていた。
    といっても、遠くから覗くようにしていただけだけど。
    彼はとても幸せそうに見えた。そう見えただけかもしれないと心のどこかで願っていた。


【数年後】

海里:(子供と会話)え? 幼稚園に好きな子がいるのか?
   そうか…。…好きな人がいるだけで毎日楽しくて幸せだろ?

   んー?…そうだね、パパは幸せだよ。
   最愛の人がいれば幸せに生きていけるんだ。
   …たとえ、一緒にいた時間が短くても。たとえ、その人が近くにいなくても。
   でも、後からその気持ちに気づくこともある。
   胸の痛みもその人を愛した証拠だから、ずっと消えなくていいんだ。

   だから…。
   だから、お前も“この人となら“、と思う人と巡りあえるように、祈ってる。


昂佑:ねぇ、お兄さん。
   俺と一晩、過ごしてみない?

   あっ。だけど好きになるのは、なしね。
   ちょっと誓いをたててる人がいるから。

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