Tell me the reason【男1:女1】

題名『Tell me the reason』
R15  男性1名 女性1名 30分

園田 美月(そのだ みつき):会社員。仕事は出来るが強がりで甘え下手。
宇藤 叶偉(うとう かい) :美月と同じ会社で働く一つ年下の会社員。人当たりが良い。


R15程度の性的表現が少し含まれます。
【現在】と【回想】のシーンが混在します。
一人称(俺→僕など)の変更可。変更による語尾等の言い回しの変更も可。


下記をコピーしてお使いください。

題名「Tell me the reason」
作:みつばちMoKo
園田 美月:
宇藤 叶偉:

https://mokoworks.amebaownd.com/posts/19171015

美月:ん。まぶし…。
   もう…。カーテン隙間開いてるじゃん…。

   はぁ、だる…。
   ほんと相変わらず容赦ないんだから…。

   …猿め。

   …まだ起きないか。
   コーヒーでも淹れよ…。

   よっと。
 
美月M:こうやってこのうちでコーヒー淹れるの何回目だろう…。
インスタントは嫌だっていう変なこだわりあって、ドリップで淹れるの練習したっけ。
自分ちじゃないのに慣れたもんだわ…。

叶偉:ん…。

美月:あ。起きた。
   ……おはよ?

叶偉:ん…おはよ。…起きた。

美月:ふふ。いやそれ起きてないって。

叶偉:なんで…。なんで、もうベッドにいないの…。
   起きて隣にいないの寂しいじゃん。

叶偉M:いつもそうだ。俺が起きるとたいていはもうベッドにいなくてなんかやってる。
でもコーヒーの香りで起こされるのは好きだ。なぜだか彼女が淹れるのは特に。

美月:飲む?コーヒー。

叶偉:うん。ちょうだい。ブラックで。

美月N:人はなにかをするのに理由を求めたがる。

(タイトルコール)
叶偉N:「Tell me the reason」


【現在:叶偉の部屋】

美月:4ヶ月か…。

叶偉:え?

美月:付き合って4ヶ月でしょ?

叶偉:あぁ…そうだな。


【回想1:会社廊下】

(叶偉、友人と通話中)

叶偉:わかってるって。ちゃんと言うから。
   告白すればいいんだろ?
   今回は俺の負けだから。ルールだからな。あのゲームの。

美月M:たまたまだった。彼が電話してるのを聞いてしまったのは。
聞いちゃいけないことを聞いてしまったようで…ひとりで気まずくなってた。
でも、もっと気まずい思いをしたのは就業後。

叶偉:あの。俺と…。俺と付き合ってくれませんか?

美月M:彼の同期グループで何かゲームや賭け事をしたとき、その罰ゲームにターゲットに告白するというどうしようもないくだらない遊びをやっていることを噂には聞いていた。その標的に私がなるとは思ってもいなかったけれど。

美月:…はい。私でよければ。

美月M:なぜかそう答えていた。


【現在:叶偉の部屋】

叶偉:あのさ。俺らが初めてした会話って覚えてる?

美月:会話?
   んー。会社が新体制になったときの親睦会でだっけ?

叶偉:うん。そこで俺ら初めて会話したの。
   なに話したのか覚えてない?

美月:えー。なんだろ?

叶偉:覚えてないか…。
   普通に好きな音楽のこととか話してたのにさ。
   急に俺に「作り笑顔、やめれば?」って言ったの。
   覚えてない?

美月:あー言ったかも。

叶偉:ふふ。辛辣だった。

美月:だってほんとにそう思ったんだもん。
   ニコニコして私と話してるのにさ。
   初めは私にだけかなって思ったんだよね。でも他の人にもそんな感じで。
   笑顔がなんていうか…嘘っぽいっていうか…無理矢理笑っているっていうか…。
   そう思ったんだよね。
   まぁ、今は違うと思うけど。

叶偉:ほんと? 今は違う?

美月:うん、普通に笑ってると思うよ。

叶偉:…そっか。そっかー。

美月:なに?ちょっと嬉しそう。

叶偉:いや? そう思ってくれてるなら嬉しいなーなんて。

美月:そういえば、お母様、元気?

叶偉:あぁ…。元気だと思う。

美月:連絡こないの?

叶偉:向こうもあんまり干渉すぎるのはよくないって思ったみたいだよ。
   まぁ美月のおかげ。

美月:え?そう?

叶偉:うん。あの時は助かった。
   彼女は自分の理想通りに息子が育っていくことに生き甲斐を感じていて。だから、自分が思っていなかった行動を俺がするとすごく怒る。小さい頃は反抗してたよ。なんでだって、やりたいようにやらせてくれってケンカした。
   でもそんな反抗も無駄だってわかってきてさ。彼女のやりたいようにやって生きていく方が楽だって諦めてた。
   付き合ってる彼女さんがいるなら連れてきなさいって言われた時、あぁ、またかって。俺は母親の言う通りにしか生きられないんだなって。

美月:私…、失礼なこと言っちゃったよね、きっと。

叶偉:いや。俺なら言えなかったから。

美月:そ?ならいいや。

叶偉:今日どうする? どっか出かける? 買い物とか映画とか。

美月:ふふ。いっつも私のしたいことばっかりじゃなくて、叶偉はないの?

叶偉:うーん。
   …ね、こっちきて。

美月:なぁに?
   わっ。ちょっと何?

叶偉:したいことあった。
   美月を抱きたい。

美月:は?…もう朝。

叶偉:朝スルの好き。

美月:ちょっ。待って。
   んん。

美月M:叶偉に抱かれるのは好き。だって、ほんとに私のこと愛してるみたいに大切に抱くから。彼の腕に包まれて、私いま幸せなんだって錯覚する。もっともっとって求めてしまう。

叶偉:可愛い。

美月:待って…ゆっくり。お願いゆっくりして。

   ね…。今日、後ろからして?

叶偉:めずらし。いつも顔見えないと嫌っていうのに。

美月M:よかった。これで泣いても大丈夫。きっとこれが最後。根は優しい人だから言い出せないんじゃないかな。だから私から言わなきゃ。
この時だけは彼は私のもので。今だけ、少しだけ勘違いしてもいい?
だって…。だってずっと好きだったの。あの罰ゲームのターゲットになる前からずっと。


【回想2:会社にて】

叶偉:まーた、一人で残業してるんですか?

美月:うっ。
   …ちょっとびっくりさせないでよ。

叶偉:また、“自分でできるから大丈夫“なんて言ったんでしょ。
   もうちょっと素直になった方がいいのに。

美月:年下のくせに生意気言うな。

叶偉:年下って言っても一個でしょ。園田さん早生まれで俺8月だし。半年しか違わない。

美月:ちょっとなんで私の誕生日知ってんの?

叶偉:知ってますよ? 園田さんのことならなんでも。
   …なーんて。
   だって誕生日も仕事してたってぼやいてたじゃないですか。

美月:まぁね。それは仕方ないことだから。

叶偉:園田さんって…。たぶん強がりですよね。
      誰かに甘えたりすることってあります?

美月:つよっ…がり…じゃない…。
   でも…。うーん…甘える、か。
   私、長女だからなぁ…。甘えるってなかなかできないかも。

叶偉:甘えることができなくて一人で頑張ってきたことはすごいことだと思いますよ。
   甘えることを忘れてしまって、それが普通のことになってしまってるんでしょ。
   たとえば「疲れた」って言うのは甘えかもしれないけれど、「疲れた」って言える人がいるのって大事じゃないですか?相手に「疲れたね」「お疲れ様」って言ってもらえるだけで気持ちが軽くなると思いますよ?それに弱音見せてくれた方が相手は嬉しいに決まってる。

美月:こんな私でも?

叶偉:園田さんだから、です。
   少なくとも俺は甘え下手だってことわかってるから、こうやって話した時ぐらい「疲れた」「手伝って」って言ってください。

美月:なんでそういうふうに思えるの?

叶偉:んー。そうですねぇ。
   強がって…周りには弱さ見せないで…。自分ひとりでなんでもできることを証明したくって、頑固になっちゃった女性を知ってる…からですかね?

美月:何、その意味深な発言。

叶偉:まぁ、それはいいとして。
   園田さん。手をグーにしてください。

美月:グー?

叶偉:そしてそのグーを俺の方に出して。

美月:こう?
   …何してんの?

叶偉:はー、よしっ!

美月:は?

叶偉:今、園田さんのグーを俺の手の平で包み込んで気合いっていうかパワー送ったので、たぶんもう大丈夫です。

美月:え? …は?

叶偉:さぁ、手伝いますか。
   何からすればいいです?

美月:…まず、コーヒー買ってきて。

叶偉:ふふ。はいはい。お砂糖とミルクは?

美月:…ミルクだけのやつ。

叶偉:かしこまりました。じゃ、行ってきます。
   戻ってくるまでにちゃんと手伝う分振り分けておいてくださいよ?

美月M:ドキドキしていた。なんで強がりだって分かったんだろう。
痛いところを突かれて彼の前でこのあとどういう態度をとっていいか分かんない。
そう、突然「甘えろ」だなんて言われてドキドキしてるだけ。そう、それだけ。
ゆっくり開いた手の平にはもちろん何もなかったのだけれど、なんだかほんとにパワーが入ったような気がした。


【回想3:会社】

美月:はぁ…。やるしかないか。

(電話着信)
美月:はい、叶偉? 

叶偉:俺、今日、直帰になる。

美月:うん、分かった。今、どこ?

叶偉:今、2階で打ち合わせ終わって、そのまま取引先に行くとこ。

美月:そっか。頑張って。

叶偉:そっちは?今の時間フロアにほとんど人いないだろ?
   …なんか…あった?

美月:え? 何もないよ。

叶偉:さっき会議行く前、部長が怒ってたって聞いたけど。

美月:あーうん、そう。
   大丈夫、なんとかなる。うん。

叶偉:なんとかって何。

美月:ほんと、大丈夫。

叶偉:美月…。

美月:いや、あのね? …なんかあの企画、ダメになっちゃいそう。

叶偉:…は?

美月:大丈夫大丈夫。また初めから考えればいいし。

叶偉:…あのさ。
   俺に強がるのはやめてって言わなかった?
   ほんとは大丈夫じゃないだろ? 
   あの企画、あんなに頑張ってたの知ってるから。
   どんだけ美月が頑張ってたのか見てきてる。

美月:ん…。

叶偉:美月…。

美月:…うん。うん。
   頑張ったのになぁ…。やり遂げたい仕事だったのに。
   何がダメだったの…? どうしてかな…。

叶偉:美月。俺にどうして欲しい?
   新しい企画、考えるの手伝って欲しい?
   資料集め、して欲しい?
   それとも部長をぶっ飛ばして欲しい?

美月:バカ。

叶偉:ちゃんと弱音吐けるようになったのはえらい。でも全部じゃないだろ?
   ほんとはどうして欲しい?

美月:…ん。
   ほんとは…。ほんとは今すぐ抱きしめて欲しい。

(通話終了)

叶偉:了解。

美月:え?

叶偉:はぁ。階段きっつ。

美月:え?取引先に向かったんじゃなかったの?

叶偉:電話した時点で声がいつもと違うから引き返したんだよ。

美月:バカ。

叶偉:はいはい。なんとでも言っていいよ。
   まずはハグでしょ。
   …おいで。

美月M:まるで冷えた体を温めるかように優しく強く抱きしめられた。
その温かさに、初めて会社で泣いた。わたし、こんなに弱かったっけ…。違うや。強がらなくていいんだ。
この温もりは、そんなに長く感じることはできないのに。もう手放さなきゃいけないのに。


【現在:叶偉の部屋】

叶偉:このまま、まったりするのもいいかもな。
   家から出ないで、ご飯もうちで食べて。
   どう?

美月:……へ?

叶偉:聞いてなかっただろ?

美月:ごめん。ちょっと色々思い出してた。
   何?

叶偉:だから今日何するかってこと。

美月:あぁ、それ。

叶偉:……また、グーにしてる。

美月:え?

叶偉:なんか頑張らなきゃいけないことあるの?
   仕事中でもやらなきゃって時ギュッて握ってること多いよ?

美月:頑張ること…ね。
   ん。(グーを彼に近づける)

叶偉:はい。パワーあげるよ。
   ふふ。可愛いグーだな。
   ……頑張れ。

美月:…ありがと。
   ふう。
   よし。…帰る。

叶偉:え? 帰るの?

美月:うん、帰る。

叶偉:なんか用事あった?

美月:いや、ないよ。帰るだけ。そして、もうここには来ない。

叶偉:は?

美月:…楽しかった。本当に付き合ってるみたいで幸せだった。
   知ってるの。…罰ゲームのターゲットになってたこと。

叶偉:いや、それは…

美月:(被せ気味に)強がりなこと見抜いて、ちゃんと私を見てくれてるって嬉しかった。
   ほんとに愛してくれてるんじゃないかって言うぐらい幸せだった。 
   罰ゲームの期限は4ヶ月。ちょうど私たちも4ヶ月。
   …終わりだよね?

   なんで私だったの?
   罰ゲームなんてくだらないこといつでも辞めれらたのに。
   私が断ると思ったんだ?
   告白して断られたって言えばそこで終わりだもんね。
   叶偉がゲームに負けた時に限って、なんで私なの?
   なんで好きにさせたの?なんで好きになっちゃったの?
   わかんないことばっかり。理由が欲しくなる…。
   でも…ほんとに叶偉のこと好きだった私が、嘘のお付き合いで、なんで幸せだったって思うのが一番わかんない。

   グーにした手に何度もパワー貰った。さっきも貰った。
   あれね、地味に嬉しかった。ほんとになんでもできるような気がしたもん。
   …ありがと。

叶偉M:全く動けなかった。口も体も。
彼女が出会った頃の強がりな顔をしていて、胸が苦しくなった。


【回想4:会社親睦会】

美月:作り笑顔、やめれば?

叶偉:えっ?

美月:たぶん他の人は気づいてないかもだけど。
   まぁ今日親睦会だから、ニコニコしてるのはいいことだと思う。

叶偉:俺、笑ってないですか?

美月:笑ってないっていうか…笑ってるけど心がないっていうか。心から笑ってないっていうか。

叶偉:……まじですか。

美月:宇藤君、自分で気づいてないんだ。

叶偉:なんででしょう…。自分では笑ってるつもりなんだけど。

美月:たぶん…。そうやって笑顔作って生きてる方が楽だってどこかで思ってるからじゃない? もしくはそういう経験してきたか…。違うかな?

叶偉:え………。

美月:何、その鳩が豆鉄砲食ったような顔。ふふふ。あは。

叶偉M:そう言った後、目をクシャってして笑った彼女の顔に見惚れてしまってドキドキしていた。先日会社の新体制が発表されて集まった時の凛とした立ち居振る舞いにすでに心掴まれていた俺は、もうこの時彼女に堕ちていた。近くにいたかった…。たとえ彼女を手に入れる方法を間違えたとしても。


【回想5:会社ロビー】

(電話着信)
美月:はい、月島くん?

   うん。あっ、あれね。
   あの本、なかなかもう手に入んないって聞いてたの。
   さすが、月島くん、持ってたんだ。

   あーじゃあ、近いうち送ってくれる?
   仕事忙しくって会えそうにないんだ。

   その後、どう?大丈夫?

   …そう。無理しないでね。

   うん、ごめん。
   ありがと。よろしくね。

(電話終了)

叶偉:なーに? 本って。

美月:わっ。びっくりした…。

叶偉:ロビーで電話してる人がいてね?
   そしたらなんとそれは俺の彼女でさ。
   近づいたら、なんか親しげにたぶん男の人と話してて。
   …仲良さそうだったね。

美月:大学の同期。
   読みたい本があったんだけど、古いやつで。
   彼、本たくさん持ってるから、もしかしてって思って連絡したんだ。

叶偉:美月って男友達ってあんまりいないかと思ってた。

美月:あー…彼はちょっと訳あって。

叶偉:本、好きなんだ?

美月:うん、家ではよく読むよ。

叶偉:あっ、今度あそこに行こうよ。

美月:どこ?

叶偉:新しい大きな書店ができたってニュースでやってた。

美月:あ、それ知ってる。

叶偉:確か駐車場もいっぱいあるはずだし、ちょっとデートがてら行こうか。

美月:いいの?本なんて私だけの趣味だよ?

叶偉:だって、そこにフードコートみたいのもあるって言ってたから。
   美味しいもん食べれるじゃん。
   探してた本だって、そこの大型書店にならあるかもよ?

叶偉M:なんか必死だった。
電話していた相手の男が彼女と同じ趣味があるというだけで、近づけたくなかった。
なんだよ、この感じ…。いや、知ってる。これはたぶん嫉妬だ。
彼女に対しては色んな初めての感情を抱く。あの時も…。


【回想6:母親と対峙】

叶偉:母さん、そんなに色々決めてくれなくて大丈夫だよ。
   俺はさ…。
   いや、なんでもない。

美月:…お母様。
   初めてお会いしたのに、失礼なことを申し上げます。

   彼は…叶偉さんは、ちゃんと信念がある人です。
   自分でちゃんと考えて行動できる人です。
   私は彼に何度も助けられました。
   もし、もし彼が誰かの導きがないと生きていけないと思ってらっしゃるのなら、それなら私がその役割を担います。
   私が…私が彼を守ります。

叶偉:母さん。
   俺はもう大人だし、ちゃんと一人で生きていける。
   正直、母さんが俺を縛ってるって思ったこともある。
   母さんの理想通りの息子に育たなくてごめん。
   …父さんの代わりになれなくてごめん。

美月:もし…。もし息子さんのことが心配なら、今度一緒にどこか出かけましょう。
   彼がどれだけいい息子に育ったか、私が証明してみせます。

叶偉M:女神かと思った。少し泣きそうだった。霧が晴れていくようで…。
俺のこと本当にそう思ってくれてるのなら、こんな嬉しいことはないと思った。
母親と対峙してこんなことを言ってくれる子は初めてで。
彼女が眩しくて、好きで、愛しくて。もっともっと彼女に似合う男になりたい。
…絶対に離さない。そう思った。


【現在:叶偉の部屋】

叶偉:待って、美月。

美月:私はほんとに好きだった。
   ……バイバイ。今までありがとね。


【次の日:美月宅】

美月:あぁ…今日ゴミ出す日だった…。
   まぁいっか、次の時で。

   行ってきます。

美月M:誰もいない部屋に一応挨拶して出かける。昨日あったことがなんだかまだ全然消化しきれてないけど。

(少し歩く)

美月:え…。
   何してるの…。

叶偉:初めは一目惚れだった。
   罰ゲームのターゲットが美月だってことになって、初めてわざと負けた。
   自分に自信がないっていうけど、美月は可愛いから。

美月:ちょっと、大きな声で突然なに。
   今、朝だし。ていうかなんでうちの近くにいるの。

叶偉:辛辣なこというけど、真っ当なことを俺にぶつけてくるから。
   母さんの呪縛をといてくれたから。
   作り笑いをしない俺でいられるから。
   そばにいてくれないと俺は俺でなくなるから。

   あと…あとは…。

美月:いきなりなに?

叶偉:だって、理由が欲しいって。だけど。だけど色んなこと考えたけど、そんな理由は後付けで、好きなものは好きっていう感情しかない。色んなもの取っ払って、その感情は俺を強くさせるし大切なものだ。
   罰ゲームのターゲットなんて酷いことして、どうやったら俺の気持ち信じてもらえるか考えてたら一日経ってた。

美月:バカ。

叶偉:バカで悪かったな。
   でも美月にそう言われるのは嫌いじゃない。
   ちゃんと説明したいし、謝りたいし、きちんと時間かけて俺の気持ち伝えたい。

美月:はぁぁ。こーいうの許しちゃうの、長女だからかなぁ…。
   ふふ、いや。好きだから、か。

叶偉:…一緒に会社行こ?

美月:ほんとバカ。
   まだ…。まだ全部信じたわけじゃないからね?

叶偉:またコーヒー淹れてくれる?

美月:…いいけど。

叶偉:ついでに。
   今度からは少しだけお砂糖いれて。

美月:え?ブラックが好きなんじゃないの?

叶偉:いや、美月がブラック飲む男の人がかっこいいって言ってたのを聞いて…。

美月:カッコつけ。

叶偉:好きな人にはいつでもかっこいいって思われたいんだよ。

美月:なんで…なんでそこまで頑張るの?

叶偉M:足を止めて真剣な顔で俺を見る彼女に、信じてもらえるまで必死に伝えるしかないと思った。

美月M:いつもとは違う必死な感じの彼の顔を見たら信じてみたくなった。

叶偉:それは…。
   自分が好きな人の好きな人になれるって…“奇跡“だって思うから。

   たぶん、それが理由。

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