インディゴブルー【男2】

題名『インディゴブルー』
全年齢 男性2名 30〜35分




『コバルトブルー』の過去編。 
遥人(はると):高校生。
結人(ゆいと):中学生。
父親は会社社長で多忙。母親は病院にて闘病中。

結人Mと表記してモノローグが入ります。



本編「コバルトブルー」
未来編「プレシャスパープル」

下記をコピーしてお使い下さい

題名「インディゴブルー」
作:みつばちMoKo
遥人:
結人:
https://mokoworks.amebaownd.com/posts/11844742/



【結人の部屋】

遥人:結人(ゆいと)。

   もう少ししたら母さんの病院に行くけど、お前も行く?

結人:あー、うん。行く。

遥人:何、読んでんの?

   ん? 写真集?
   じゃあ、読んでんじゃなくって見てんのか。

結人:この前、買ったやつだよ。

遥人:写真集って面白いの?
   字とか書いてないし。
   お前が見てるのって、風景とかのやつだろ?
   可愛い女の子が載ってるなら、俺も興味あるけど。

結人:いや、遥兄(はるにぃ)はそっちの方しか見ないでしょ……。

   僕は、こういうのが好きなの。
   癒されるじゃん、なんか。

遥人:癒されるって…。お前いくつだよ…。

結人:いいじゃん。

遥人:お前、そんなに写真好きなら、自分で撮ってみたら?

   確か、じいちゃんもいいカメラ持ってたろ?
   アレ、どこいったんだっけ?
   流石にもう使えないか?

結人:あー、実は僕、持ってる。
   じいちゃんから譲り受けたんだけど、かなり昔のやつだから、
   色々と操作が面倒くさそうで。
   ちゃんと動くか分かんないし。

遥人:ふーん。
   まぁ、好きなようにしろよ。

   父さんに言ったら、新しいやつ、買ってくれるんじゃないのか?

結人:父さんにもし頼んだら、きっと“いい成績取ったら“って
   言うに決まってるよ。

   それにさ。
   本当はお小遣い貯めてて…。お年玉とかも。
   自分で本当に欲しいカメラ買いたいなって思って。

遥人:おー、偉いな。
   まぁ、そんだけ好きな趣味があるっていいことだと思うぞ。

   俺は…。俺には何もないしな。

結人:遥兄は父さんの会社、継ぐんでしょ?
   そのためにずっと頑張ってるように見えるけど…。

遥人:まぁな。
   特にやりたいこともないしなぁ。
   大学行って、経営学とか学んで、会社に入るんだろうなぁ。
   それが自然に考えてきた進路だったし。
   でも、長男だから必然っていうだけだし、実際はお前の方が頭いいし。
   ある意味、お前が羨ましいよ。

結人:そうかなぁ。
   頑張ってる遥兄、かっこいいけど。

遥人:バカっ。
   …かっこいいってなんだよ。照れるじゃん。

結人:ふふ。

   今日、父さんは?
   父さんも一緒に病院行くの?

遥人:……あー、いや、父さんは…。
   父さんは仕事があるって。
   今日は、お前と二人で行く。

結人:相変わらず忙しいんだね、父さん。
   母さんのお見舞いもあんまり来れないし。

遥人:電話したんだけどな。
   今日も無理みたいだ。

   だから今日は、車じゃなくってバスで行くぞ。

結人:ほんと?

遥人:なに?
   なんで喜んでんの?

結人:だって、遥兄とバス乗るのって、昔、家出ごっこした時に乗ったよね?
   楽しかった思い出あるんだよね。
   ワクワクした記憶。
   母さんにすんごく怒られた日でさ。

遥人:あぁ、覚えてる。
   あれだろ? お前がバケツの水、何度もわざとひっくり返して
   家の庭も、俺たち自身もバケツの青い水で青くなった時だろ?

結人:うん。
   ただちょっと楽しくてふざけちゃった日。

遥人:なんかノリでやっちゃったんだよな。
   全部、綺麗にするまで家に入ってくるなって言われて。
   二人で着替えて、そのままプチ家出。

結人:でも、行くとこなくてさぁ。
   夜遅くに、帰ってきて。

遥人:母さん、すごく心配してたってわかって申し訳なくなったよな。

結人:うん。
   母さんの大事に育ててる花壇に色水がかかっちゃってたって
   後からわかって、余計に。

遥人:そうそう。懐かしいな…。

   って、こんなに話してたら面会時間終わっちゃうな。
   じゃ、あと20分後ぐらいに行くから、準備しといて。

結人:わかった。
   
遥人:お。飴、発見。
   もーらい!
   
   わっ。酸っぱぁ…。

結人:そういうとこ、バカだよねぇ。
   袋にレモン味って書いてあるじゃん。

   それと…。
   デニムのポケット、裏返しになってて白いの見えてるよ…。

遥人:え?
   あぁ。

   よくこんな酸っぱいの食べれるな。

結人:もらった。
   
   …それに最初は酸っぱいけど、だんだん甘くなってくんだよ。

遥人:そうなの?
   まぁいいや。

   じゃあ準備しとけよ。


【自宅リビング】

結人:遥兄、何、イライラしてんの?

遥人:結人か…

   あー…いや…。

結人:何?誰かと電話?

遥人:……父さん。

結人:どしたの?
   何か、あったの?

遥人:母さんのお見舞い、今日も来れないっていうからさ。
   ちょっと言い合いになって…。

   忙しいのは、分かってるさ。
   でも、母さん、寂しいだろ?

   病気を治すことは、俺はできないし…。
   なんも取り柄もない俺は母さんを喜ばすことさえできない…。

   父さんになるべく病院にきてもらうように説得するしかないだろ…。

結人:……僕さ。
   父さんが会社の人と話してるの、聞いちゃったことがあるんだけど。

   父さん、仕事の合間に、セカンドオピニオンっていうの?
   母さんにもっといい治療法はないのかって、いろんな病院に
   聞きに行ってるらしいよ。

遥人:は?
   そんなこと、俺はひとことも聞いてない…。

結人:だから、余計に忙しくしてるみたいだよ。

遥人:そんなこと言ったって、お見舞いに行った方が母さん喜ぶだろ?

結人:母さんも母さんだよね。
   父さんに気を使ってんのか、忙しいからあんまり連絡するなって
   言うし…。

   お互い、相手を思いやっているのにすれちがっているっていう…。

   母さん…、父さんに会いたくないのかな…。

遥人:会いたいと思ってると思うけどな。

   母さん、あんまり弱音吐かないだろ。
   お見舞い行った時だって、痛みが強い時もあるだろうけど、
   つらい顔見せないし。

   俺たちには甘えられないのかな…。

結人:母さん、父さんが忙しいから、僕らのこと、すごく頑張って
   優しく厳しく育ててきてくれたんだよね、きっと。
   自分一人で抱え込みすぎだよ。

遥人:お前、若いのに、よくわかってんじゃん。

結人:いや、若いのにって、遥兄だって若いじゃん。

遥人:俺さ…。
   特になんか秀でてできるもんとかなくて。
   勉強もそれなり、スポーツもそれなり。
   だから、時々、自分に自信がなくなる。

   父さんは、やっぱり会社を継ぐ可能性がある俺に期待するだろ?
   時々、思うんだ。俺で大丈夫かなって。

   もっと小さい頃。
   父さんの会社について行って、働いてるところ見たことあるんだ。
   
   すっげーって思った。
   なんか活きいきしてて、キラキラしてて、まぶしかった。
   カッコ良かった。

   ちゃんと俺たち家族も大事にしてて。

   だから、あの頃は素直に父さんみたいになりたいって思ってたんだよな。

結人:今は…?

遥人:忙しいのはわかってる。
   でも……。
   でも、母さんに寂しい思いをさせるのは違うんじゃないかって思ってる。
   だから、正直イライラしてるし、怒ってる。

   今の父さんは、あんまり好きじゃない…。

結人:そっか…。
   どうしたらいいんだろ…。

遥人:ほんとどうしたらいいんだろうな。
   自分がやってることが空回りしてるようで。
   なんか虚しいわ…。

結人:遥兄…。

遥人:まぁ、お前は気にするな。
   父さんのことは俺がなんとかするから。

結人:うん…。
   何か僕にできることがあったら言って。

遥人:あ。
   お前、この前、カメラ買ってただろ?
   あれで、母さんの写真、撮ってあげたら?

結人:えー、僕、人物撮るの、苦手なんだけどなぁ…。

遥人:まぁ、母さんももしかしたら嫌がるかも知んないけど。
   気が向いたら、な?

結人:…うん、わかった。

遥人:じいちゃんのカメラは使えなかったのか?

結人:カメラ屋さんに見てもらったんだけど、一応まだ動くらしいよ。
   ただフィルム使うから、色々と難しいらしくって。

   でも、まだ動くってわかって、ちょっと嬉しかった。

遥人:俺はカメラには詳しくはないけど、高そうなやつだもんな。
   当時だったら、結構したんだろうな。

結人:そうだろうね。
   
   でも、動くってわかって、じいちゃんの意思が続いてるみたいでさ。
   嬉しかったんだ。

遥人:そっか。

   ……結人はさ。

結人:ん?

遥人:お前はやっぱり優しいな。
   色んな人の思いを受け取って、繋いでいこうとする。
   俺にはできないよ。
   自分で精一杯だからな。

結人:そうかな?

遥人:お前、ほんとに俺の弟?

結人:残念ながら、本当だよ、遥兄。

遥人:そっか、そうだよな。
   自慢の弟だわ。

結人:うっわー。嘘っぽい。


【病院、母の病室】

結人:母さん…。調子どう?

   あれ…?

   寝てんのかぁ…。

   今日は僕一人で来たから、びっくりさせようと思ったのに。

   座っちゃお。


   ……痛々しい腕。

   点滴とかいっぱいしてるもんな…。


   母さん。

   遥兄、最近なんかすごくイライラしてるんだ。

   母さんのところに来てる時はさ、いつもと変わらない様子だと思うけど。

   イライラしたり、落ち込んだり。

   なんか見てるの、つらいよ。

   父さんとは日に日に仲悪くなっていってる。
   会うたび、言い合いになってて…。

   僕、聞いてるの、嫌だ…。

   ずっとこのままなのかなぁ。

   家族がバラバラになっちゃうみたいで悲しい。
   寂しいよ。

   遥兄はさ、自分がどうすればいいのか、自問自答してる。
   これでいいのか、どうしたらいいのか、すごく考えてる。

   本当は何でもできるのに…。

   自分は何も取り柄がないと思ってるから自信がなくて迷ってる。

   父さんは父さんで自分のやってることは正しいと信じて行動してる。

   だからぶつかり合ってるような気がするんだ。

   僕はどうすればいいんだろ…。


   母さん…。

   僕の名前さ…。
   人と人を結びつける、優しくて思慮深い人間になるように
   “結う人“と書いて結人(ゆいと)って名付けたって言ってたよね。

   僕にできるかなぁ…。

   父さんと遥兄を、もう一度結びつけることができるのかなぁ。

   ふふ。
   弱音吐いちゃった。

   母さんの前だからかな。

   ……まぁ、寝てるけど。

   ん?
   起きたの?
   
   ……あれ? 気のせいか。
   少し手が動いたような気がしたんだけど。

   暗くなってきたな。

   そろそろ帰るね。
   今度は起きてる時に。

   またね。


【病室前】

遥人:何だよ!
   くそ!

結人:遥兄、落ち着いて。

遥人:父さん、まだこっちに来れないって。

   さっきから何回も連絡してやっと繋がったと思ったら、
   「まだ行けない」だってよ。

   母さん…。母さん、もうダメかもしれないのに…。

   何やってんだよ、父さん…。

結人:今すぐってわけじゃないから、きっと間に合うよ。
   先生と看護師さん、診ててくれてるし。

   ほら、座って待ってよ?

遥人:お前、落ち着いてるな。

結人:遥兄がバタバタしてんのみてたら、自然と落ち着いちゃうよ。

(二人、座って話す)

遥人:なぁ、結人…。

   母親ってさ。
   何で、あんなに大きな愛情持てんだろうな。

   俺たちが何やっても最後は受け入れてくれるもんな。

   そりゃあ、怒られたりはするけどさ。
   ダメなことは叱って、ちゃんとあとでフォローして。

   こんなダメダメな俺でも、それでいいんだよって認めてくれる。

   すっげーよな、母親って。

結人:うん…。
   そうだね。

   僕、母さんがいなくなるっていう想像してなかった…。
   ううん、想像したくなくて、してなかったんだけど。

   そろそろ覚悟してくださいって言われた時は、さすがに…。

遥人:なんだ、お前。
   ちゃんと、悲しんでたんだな。
   飄々としてるから、ちょっと心配してた。

   そういえば、母さんの写真撮れて良かったな。

結人:一人じゃ嫌だっていうから、結局僕たちも一緒に写ることになったけど…。

   あのあと、カメラしまってる時に、母さん、僕にだけ聞こえるような
   小さい声で言ったんだ。

   一人で逝くのは寂しい。
   けれど、あなたたちを残して逝くのはもっと寂しい、って。

   一人で写った写真にしたら、きっと遺影に使われちゃうだろうから
   嫌だって。

   もし、そういう時がきたら、もう少し綺麗な頃の写真を使って、って。

   母さん自身もいろいろ考えてる。
   でも強い。
   …そして弱い。

遥人:夜の病院は、白くて、静かで、なんか嫌だな…。

   母さん、いっつもこんな環境で、夜過ごしてたんだな。

結人:僕だったら、耐えられないかも。

   一人で過ごすことも。
   一人で逝くことも。

遥人:あぁ。
   置いていかれる方も、先に逝く方も。
   どっちもつらいな。

   こんな経験、もうしたくない。

結人:うん…、そうだね…。


【母のベッドサイドにて】

遥人:母さん。 
   父さん、間に合わないんだ。
   ごめん、最後会わせてあげられなくって、本当にごめん。

結人:母さん、頑張ったね。

遥人:あぁ。
   すっげー頑張った。



結人M:母さんは亡くなった。
    最期はもう眠るように、それは静かに息を引き取った。
    遥兄も僕もしばらく動けなかった。
    悲しくて寂しくてどうしようもなかった。

    けれど、遥兄が思った以上に何かを感じてもがいていることに
    僕は気づけなかった。



【自宅リビング】

結人:遥兄…。

   大学行かないって本当?

遥人:何だ、結人か。

   誰から聞いた?
   って父さんしか居ないか…。

   行かねえよ。
   高校卒業したら、家出ていく。

結人:家出てくって…。
   出て行ってどうするの?

遥人:働くだろうな。
   生きてくために。

結人:何で…。何で出ていくの?
   出ていく必要ないじゃん。

遥人:はぁ…。
   もう、嫌なんだよね。ここに自分がいることが。

結人:遥兄…、なんか責任感じてんの?
   自分を責めてるでしょ?

   母さんが死んだことも、父さんが間に合わなかったことも、  
   遥兄のせいじゃないよ。

遥人:ふふ。
   さぁ、どうだか…。

   なんかさぁ、惨めになるんだよ。いろいろと。

結人:会社は?
   父さんの会社に入るんじゃないの?

遥人:お前が継げばいい。

   …俺にはそんな器量がないし。

   お前もさ。
   そろそろ俺がいなくてもいいようになれ。

   “遥兄“って呼ぶのも辞めたら?
   いつまでも子供みたいだろ。

結人:何でそんなこと言うんだよ。
   冷たいじゃん。

遥人:うるさい。

   俺、これからバイトなんだよね。
   時間ないんだわ。


結人:ちょっと待ってよ、遥兄。

(結人、遥人の腕を掴む)

   本気なの?

遥人:手、離せ。

   …本気だ。
   バイトだって、家出ていくための金を貯めてる。

結人:やだよ、出てくなんて。

遥人:手、離せって。

結人:待ってよ、遥兄!

   もう一度、考え直してよ!

   ねえ!

   遥兄!


【母の仏壇前】

遥人:お茶はここに置いて…。

   おっと。こぼれるとこだった。

   よいしょっと。

(仏壇の前で座る)

   母さん。

   そっちは寒くないか?

   母さん、寒がりだったからな。
   夏でもあんまり暑いって言わなかったし、冬は特に寒がってた。

   あーでも、そっちはそんなこと気にしなくていいのか。
   快適なんだろうな。

   俺さ……。
   家、出ていくことにしたよ。

   なんだかこのまま流されるように生きていくのがつらくなって。

   大学行かないってことを決めて、学校で先生と揉めたり、
   もちろん父さんとも喧嘩した。
   
   なんか、自分で何かを決めて行動するってことをしてこなかった
   んだって気付いたんだ。

   特に何か得意なことがあるわけじゃないし。
   結人みたいに頭も良くて、趣味もあってっていうわけじゃないから。

   母さん…。

   俺、母さんにとって、どんな子供だった?

   ちゃんと名前の通り、スケールが大きくて可能性を秘めた子供だった?

   ふふ。
   どうなんだろ…。

   まぁ、自由すぎて手がかかる子供だったことは確かだよな。

   父さんはさ。
   母さんがいなくなったあと、すっかり憔悴しきって。
   一時期、使い物にならないぐらいに。

   今は、少し立ち直って、会社のために頑張ってるみたいだ。

   あぁ、俺は父さんと全然話してないから、チラッとみたり、
   あと…、聞いてもいないのに、結人が教えてくれた。

   まぁ、二人とも元気だからさ。
   心配しないで。

   ただ…。
   結人はさ。
 
   あいつ、俺がこんなんだから、しっかりした性格に育っちゃって。

   何をしても落ち着いてるし、真面目だし、飄々としてる。

   感情を押し殺してるんじゃないかっていうぐらいでちょっと心配になる。

   あいつ、吐き出せるとこ、あんのかな。

   弱さを見せられる誰か、いんのかな…。

   本当は、あいつにとって、俺がそういう役目をしなくちゃならない
   んだろうけれど、なれなかったから…。

   だから、母さん。

   もし。
   もし、結人がどうしても困ったとき、そっちからでいいよ?
   あいつの支えになってくれ。
  
   母さんの想いなら、あいつにきっと届いて支えになるはずだから。

   頼ってくれるのが俺ならちょっと嬉しいって思うけど…。
   まぁ、それはないだろうからさ。

   よろしくな、母さん。
   頼むよ。

   こうやって仏壇の前で手を合わせることもできなくなるけど、
   ごめんな。

   ずっと見守ってきてくれてありがとう。

   ……ありがとう、母さん。


【自宅玄関】

結人:ほんとに、今日、出ていくんだ…。

遥人:お前…。
   朝早いのに、起きたのか。

結人:出ていくんなら、今日じゃないかなって思ってたから。

   どこに行くの?

遥人:…さぁ。

結人:どこに住むの?

遥人:さぁ。

   お前にはいろいろと負担かけることになるな。

結人:そう思うのなら、出ていかないでよ。

遥人:はは。
   それはできないな。

結人:兄さん…、これ。

遥人:何だ?

結人:写真。 
   母さんの病室で3人でとった写真。
   父さんは写ってないけど。

   会えなくなっても、これみて俺たちのこと、たまに考えてよ。

遥人:ったく…。
   お前が考えそうなことだな。

   ……まぁ、ありがたく、貰っとく。
   母さんの写真、荷物に入れてなかったから。

結人:兄さんのこと、探してもいい?

遥人:……好きにしろ。

結人:兄さんに会いにいってもいい?

遥人:お前が大人になったらな。

結人:絶対、絶対、見つけるから。

   そして、会いに行くから。

遥人:はは。
   ストーカーみたいだな。

   そのころは、俺、何やってんだろうなぁ。
   ちゃんと生きてんのかな…。

   じゃあな、結人。

   それと、サンキューな。

   ……潰れんなよ。

(あればSE ドアの閉まる音)



結人M:出ていく遥兄の履いていたデニムのインディゴブルーが目に
    焼きついた。
    それは僕の好きな青じゃなくて、もっと深く、暗い、悲しい青に思えた。



結人:遥兄…。

   潰れそうなのは、そっちじゃんか…。

   必ず会いに行くから。

   俺が…。 
   俺が一人前になるまで待っててよ。


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